人事評価#3 企業にはびこる人材登用の罠

活躍するプレイヤーとトップリーダーの能力・資質は同じではない

 人材を登用するための人事評価は、基本的にはラインの上司が行います。大企業ともなるとラインの階層も多く、社長や人事担当役員は全ての評価・登用までは目が届きません。したがって出世するには、上司から実力を認めてもらい、評価してもらう必要があります。

 上司がしっかりと評価できる見識をもっている人物であれば問題ありません。しかしそうでない場合は、将来リーダーとなるべき能力・資質を持っているかどうかより、自分の評価や出世のために目先の実績を上げてくれる「愛いやつ(ういやつ)」を評価しがちです。そして「愛いやつ」として登用された人物は、それで良いと思って自分の「愛いやつ」をまた登用する。

 その「愛いやつ」と将来のリーダー候補として会社が登用すべき人材の評価が一致していれば問題ありませんが、そうはなりません。なぜなら、将来会社の経営でリーダーシップを発揮するための資質・能力と、中間管理職のマネージャーとしての能力、そして若手プレイヤーとして求められる能力は、それぞれ評価項目の重要度が違うからです。

 かつて米IBMを1990年代に大企業病から見事に復活させたルイス・ガースナー氏は著書「巨象も踊る」(日経新聞社)で、「企業文化の改革は経営そのもの」「すべての組織は結局のところ一人の人間の長い影である」と書いています。経営者の人格が役員に影響を与え、役員の人格が部長に影響を与え、部長の人格が・・・と下のラインに浸透していき企業文化となっていきます。

 人事評価の項目には、基礎能力、リーダーシップ・マネジメント力、専門性、情熱(モチベーション)、資質(人格)などがあります。健全な企業文化を作るためには、トップリーダーの資質(人格)がとても重要なのです。同時に昨今の非連続的かつダイナミックに変化する経営環境の中で会社を引っ張っていくためには、初めての状況に的確に対応していくための基礎能力と、もちろんリーダーシップも重要です。

 一方、中間管理職は、チームで成果を上げるために部下を管理するマネジメント力の重要性が高く、担当業務領域で実績をあげるための専門性も重要です。そして若手プレイヤーは、基礎能力とともにまず担当する仕事の専門性を磨いて、プレイヤーとして成果を上げなければなりません。

 このように社員の成長に応じて評価項目の重要度は変化していき、トップリーダーと活躍するプレイヤーに必要な資質・能力の重要度は同じではありません。それぞれの階層で「愛いやつ」だけを評価し登用していくことが、必ずしも将来のリーダーを選抜していくことにならない理由がお分かりいただけますでしょうか。

 この「愛いやつ」を登用していく過程で、実績は上げるが人格的に問題のある社員が登用されてしまうと、その社員がまた同じような社員を登用してしまうという人材登用の罠に陥ってしまいます。そして資質(人格)に問題のある人がトップリーダーになってしまうと、企業文化が硬直的で風通しが悪いものになっていき、溜まった膿が吹き出すように不祥事が起こるのです。

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人事評価#2 なぜ大企業の不祥事が起こるのか?

大企業の不祥事には底流に流れる共通点がある

 さて、いきなり人事と関係なさそうなテーマになりましたが、一流大企業の不祥事ってよく起こりますよね。社長さんや重役の皆さんが並んで謝罪会見をする映像が浮かんできます。

 不祥事といえば、2000年ころから度々起こった三菱自動車の不祥事が思い出されます。当時の運輸省への内部告発で発覚したリコール隠し、小説「空飛ぶタイヤ」のモデルにもなったトラックの車輪脱落事故、さらに2016年の燃費詐称事件など立て続けに起こりました。

 結局単独では生き残れず、ルノー日産グループに併合されるまでになりました。原因としては、表面を取り繕い真因を掘り下げない風通しの悪い組織風土、減点主義や事なかれ主義などの企業文化があげられました。不正のたびにコンプライアンス態勢の改善計画が発表されましたが、結果としては機能せず不正が繰り返されました。

 2015年に証券取引等監視委員会への内部通報で発覚した東芝の不適切会計もありました。これは2006年のウェスティングハウス買収の失敗やその後のリーマンショック、半導体不況などによる業績不振を隠すため、社長三代にわたって1,500億円もの利益かさ上げが行われてきたものです。

 「チャレンジ」という高い業績目標へのプレッシャーの下で、上司の意向に逆らうことができない風通しの悪い企業文化が原因の一つと言われています。その後東芝はアクティビストファンドが大株主になり、現在でも経営は迷走が続いています。

 この二つの不祥事の原因には、目先を取り繕い本質を見ない、声を上げられない風通しの悪い企業文化、ガバナンス態勢や再発防止策は立派なものを作るが機能しない、などの共通点が見られます。

 三菱自動車も東芝もわが国を代表する一流大企業であり、立派な学歴の社員が入社して一生懸命働いている会社です。いずれも内部通報による発覚であることから見ても、心ある社員の方は多数存在していたのでしょう。

 それなのに何故、このような不祥事が起こるような風通しの悪い企業文化になってしまうのでしょうか?わたしは、原因としてサラリーマン大企業にはびこる人材登用の罠があると考えています。

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人事評価#1 リーダー育成・選抜のための人事評価シリーズ

リーダー育成・選抜のための人事評価シリーズ

 このリーダー育成・選抜のための人事評価シリーズでは、企業の人事運営で陥りがちな問題とはなにか、企業のリーダーに必要な資質は何かについて考えてみました。そして、そういうリーダーを選抜し育成するためにはどういう人事評価・登用をすれば良いのかについて、わたしが考えて実際にやってきたことを語ってみたいと思います。

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はじめまして

 はじめまして。人事部長Fと申します。わたしは金融機関で人事業務を8年、そのうち人事部長を4年間勤めました。

 わたしは30年ほど前に小さな証券会社に立ち上げから参画し、いずれは社長になるつもりでいかにその会社を大きくて存在感のある魅力的な会社にするかを考えてきました。小さな会社なので、どういうビジネスで儲けるかという経営戦略とともに、どういう人材に入社してもらいどう評価・処遇して活躍してもらうかという人事戦略を、同時に考える必要がありました。

 その後会社は合併をくり返して、現在は大手と言われる規模になりました。わたしが人事部長になったのは大きな会社になってからですが、当初小さな会社で経営者目線で人事戦略を考えていたことがとても役に立ちました。

 人事戦略の本質は経営そのものであり、人事制度・評価・処遇・人材登用はどういう人にどのように活躍してもらいたいかを表したものでなくてはなりません。それはその会社の規模や環境、そして経営が目指すものによって違います。その本質から離れて、やれ指名委員会だ、やれジョブ型だ、やれ人的資本だと言ってみても、ただの言葉遊びでは会社は良くなりません。

 このブログでは、社員のエンゲージメントを高めて会社の業績に資するような人事制度、人事運営、評価や処遇、登用などについて、わたしが考え実際にやってきたことを語ってみたいと思います。

 企業で人事関連業務に携わっている方はもちろん、経営者や経営戦略を考える役目の方、そしてこれから成長して活躍していく企業にお勤めの社員の皆様にも読んでいただけるとうれしいです。

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