人事制度#2 日本型メンバーシップ型の効用①

空きポストを埋める仕組み、OJTによる人材育成

 違和感その2は、日本型メンバーシップ型の良さが理解されていないことです。日本型メンバーシップ型雇用の長所については、海老原嗣生氏の著書「人事の成り立ち」「人事の組み立て」「人事の企て」の人事シリーズで見事に整理していただいておりますので、以下参考にしています。(このシリーズは雇用制度の理論と実践を繋げて分かり易く整理されており、大変参考になりました)

 日本型メンバーシップ型雇用とは、新卒一括・業務無限定で採用し、現場OJTで少しずつ難しい仕事を与えながら社員を成長させていくシステムです。成長するとともに誰でも階段が登れるシステムで職能資格が上り、それに伴い報酬も徐々に上がっていきます。人事部は業務領域をまたいだ異動を発令し、異動に本人同意は必要ありません。前述のように中途解雇は非常に難しい一方、定年制により一定の年齢になると一括で雇用契約が一度解消されます。

 メンバーシップ型の長所としては、例えばポストがあいた場合、縦横斜め(部下、横のポストの社員、当該業務経験者など)の異動で即座に埋め、その空きをさらに縦横斜めの異動で埋めることをくり返すことで、最後には新卒一人を採用すれば補充できる点です。これは様々な業務を経験して汎用的能力(基礎能力・リーダーシップ・マネジメント力)を高めている社員と、社員の特徴を把握している人事部がおり、人事部が異動権限を持っていることで初めて成り立つ画期的な仕組みであり、ジョブ型制度ではこのような真似はできません。

 人材育成については、メンバーシップ型は上司が部下の成長に応じて少しずつ難しい仕事を与えていく仕組みであり、日々の仕事がそのまま育成につながるOJTが主体となっています。日本企業では、上司はもちろん先輩も後輩を指導することがあたりまえだという文化があります。ジョブ型制度の下では、後輩を育てると自分のポストが奪われてしまうというディレンマがあり、そのような文化は育ちにくいでしょう。最近日本企業は他国の企業に比べて教育研修費が少ないといった内容の記事を目にしますが、教育研修費という名目のコストになっていないだけで、現場の上司や先輩の教育・指導という形でコスト(労力)は十分にかけていると言えるのではないでしょうか。

 ちなみに、日本企業は終身雇用制度のせいで雇用が固定化されているとの論調も多いですが、日本だけが世界の中で突出して長期固定化しているということではないようです。「データブック国際労働比較2022(厚生労働省管轄の独立行政法人作成)」によると、2020年の国別勤続年数は日本11.9年に対して、米国4.1年、英国8.1年と米英に比べると確かに長いですが、ドイツ10.8年、フランス11.0年、イタリア12.4年などはほぼ日本並みとなっています。このデータを見限り、むしろ米国が突出して短いというべきでしょう。

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人事制度#1 ジョブ型雇用って何?

ジョブ型の定義、ジョブ・ディスクリプションの実態、解雇との関係

 数年前から「日本型雇用は時代遅れ、日本企業も欧米型のジョブ型雇用を導入すべき」といった論調が幅を利かせています。大企業がジョブ型雇用制度を導入したと大々的に宣伝しているニュースも耳にします。しかし、わたしは当初から二つの点でその論調に違和感を持っています。

 日本型雇用とはいわゆるメンバーシップ型雇用制度を指します。会社に人事異動の権限があり、新卒一括採用をして誰もが一定程度まで階段を登れるシステム、終身雇用、定年制などが特徴だと言われています。一方ジョブ型雇用とは、人事異動は本人同意が必要であり、詳細なジョブ・ディスクリプションを明示して採用し、終身雇用ではなく人材の流動性が高いと言われています。

 違和感その1は、ジョブ型の定義があいまいな点です。ポスト限定型と業務領域限定型の二種類を混同していますし、目標管理制度と勘違いしているようなものまで見受けられます。ポスト限定型は業務のみならずポストまで限定するもので、業務領域限定型は業務範囲は限定されているが、その中でタイトルが上ったりポストに就いたりする制度です。欧米中心の外資系金融機関などを見ると、ポスト限定型ではなく業務領域限定型の制度が主流のようです。

 ジョブ・ディスクリプションというのは、欧米企業でも緩やかに業務領域や責任範囲を規定しているものであり、厳密なアサインメントを細かく定義しているものではありません。なぜなら、特にホワイトカラーの仕事は会社の状況や世の中の流れなどで期待要件はどんどん変わっていくものであり、ジョブ・ディスクリプションを厳密に設定したそばからどんどん変更が必要になってしまい、ワークしなくなるからです。雇用契約上は幅を持たせた形で規定しておき、細かいアサインメントは毎年の目標設定時などで会社と社員が納得して決めていく形が、現場感覚にフィットする形だと思います。

  日本企業にジョブ型雇用が根付かない理由としては、日本の解雇法制(判例による解雇の困難さ)も大きいと思われます。日本では、解雇する際に金銭による解決は一般的ではなく、基準のようなものも示されていません。日本の労働法制は昔の工場労働者などの強い雇用主と弱い労働者という関係がベースとなっており、会社と社員がフィフティ・フィフティの関係に近いホワイトカラーには馴染まないものになっています。社員は会社に不満があればいつでも退職できますが、会社は社員が期待通りに働いてくれなくても簡単には解雇できず、相当ひどい場合でも改善を何度も促したり証拠を集めておくなど、解雇のハードルは非常に高いと感じます。さらに訴訟になると「不当解雇・再雇用」を争われますので、特にレピュテーションリスク(評判リスク)に敏感な大企業は、ポスト限定採用などは怖くて二の足を踏んでしまうのが現状です。

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人事評価#11 評価・登用の実際

社員エンゲージメントを高める人格中心リーダー選抜

 ではリーダー選抜・育成のための人事評価シリーズの最後に、実際の評価運営に関してのポイントをいくつか述べたいと思います。

 まず総合能力評価各項目の評価結果をどのように表示していくか、という点です。基礎能力およびリーダーシップ・マネジメント力の汎用的能力については、役員・部長・課長などのポストレベルと担当者3(一人前)、担当者2(半人前)、担当者1(新入社員)などのレベル設定をすることで評価し易くなると思います。実際には役員といえども全ての評価項目で最高レベルの能力を備えていることはまれですが、会社で使っている職能資格やポスト呼称などの定義に合わせた評価レベル設定が、評価の実感を高めると思います。例えば課長を目指す担当者3の社員に対して、「知る、表明する、実行するは課長レベルで、特に自分の意見を積極的に表明する姿勢は長所。一方○○プロジェクトの企画書などを見ると、真因を探って解決策を見出す部分、つまり理解する、意見を持つは、課長に向けてもう一段の研鑽が必要」などと評価し、具体的な事例と共にフィードバックすることで、その社員の課題を明確に浮き彫りにできます。

 専門性については、全業務領域で専門性を示す共通タイトル(例:MDマネジメントダイレクター・Dダイレクター・VPバイスプレジデント・ASアソシエイト・ANアナリストなど)を決めておき、各タイトルの定義(レベル感や必要能力、資格など)は業務領域ごとに設定します。例えば法務部門のMDは「弁護士資格あるいはそれと同等の知見」など分かり易いものが良いでしょう。

 情熱と資質についてはすでに述べましたが、本人の明らかな長所だと思われる資質はどれか、あるいは明らかに欠けている資質はどれかを、具体的事例と共に挙げてもらうのが良いでしょう。例えば「情熱が長所:○○のプロジェクトで、反対意見があってもあきらめず、粘り強く説得して理解を得て目標を達成できた」などです。

 総合能力評価=能力×情熱×資質ですが、評価が定性的であるため最終評価結果を点数化することは困難です。評価結果を表す一つの方法としては、評価結果としては長所と課題を浮き彫りにしたうえで、上位の職能資格やポストとのギャップで示す方法があります。例えば「S=上位資格・ポストの実力、A=現資格・ポスト並みの実力、B=現資格・ポスト以下の実力」などで、段階はもう少し細かく設定可能だと思います。これもすでに述べましたが、定性的な評価結果の精度を上げるためにも、360度評価は参考として必須です。評価する上司から見えない部分がはっきり見えてくるとともに、主観的な評価を集めることで客観性が備わり、評価の精度が格段に高まります。

 そして人事部は、評価者である上司自身がどのように部下を評価しているか、その正しさや着眼点をよく見ておきましょう。ある部下を周りに比べて高く評価している場合、その後のその部下の活躍などをしっかりチェックしていきます。部下の長所短所を的確に見抜く人物鑑定眼がなければ、将来の経営者としての成功はとてもおぼつかないからです。

 総合能力評価の結果のフィードバックは、社員の成長を促すことが大きな目的です。本人の長所と課題を明確に示すことで、これから磨いていくべき部分を本人と上司が共有します。360度評価は本人へのフィードバックの納得性を高めるためにも有効です。例えば「360度評価では、複数の関係者が君はチームの間に落ちそうな球を取りにいかないと感じているようだ。自分のアサインメントだけでなく、自分がチームのためになすべきことを能動的に行うことがチームワークの本質であり、リーダーとして成長していくために必要ですよ」といったフィードバックは、上司の主観だけのフィードバックに比べて納得性が高まります。

 評価シートの構成、評価項目についての啓もうや浸透、360度評価導入時の注意点など、総合能力評価をワークさせるためには様々なポイントがあります。また、会社の組織体系や状況によっても変わってきます。総合能力評価は、会社の人事制度などに合わせて全体の仕組みを構築していく必要があるでしょう。

 最後に社員エンゲージメントと人事運営の関係について一言。会社が持続的に成長できるかどうかは、ひとえに社員エンゲージメントが高いかどうかによります。社員エンゲージメントを上げるためには、会社の理念、処遇条件、上司や周りとの関係など様々な要因が絡みます。しかし何よりも評価制度の公平さ、公正さや、経営者や役員などに登用されていく人の人選に対しての納得感が重要です。その他のことにどれだけ力を入れても、評価や登用に納得感がなければ社員のエンゲージメントは上がらず、企業カルチャーも健全なものにはなりません。偉くなる人に対して、社員が「あの人が偉くなるのは当然だよね」と納得できずに「なぜあんな人が偉くなるの?」という登用をしていると、理念やメッセージが立派であればあるほどむしろ社員はしらけてしまいます。経営者や人事部門が最も重要視すべきことです。

 人格中心リーダー選抜の徹底は、健全な企業カルチャーを作り社員のエンゲージメントを高めるために最も重要であり、必須の仕組みです。企業で働く社員の皆さんが、徳を持った経営者に率いられた魅力的な会社で生き生きと働き、世界で活躍することを願っています。

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人事評価#10 総合能力評価の項目⑤ (資質:人間性・人徳・人格)

経営者の資質は、企業カルチャー、社員エンゲージメントに直結する

 いよいよ資質(人間性・人徳・人格)です。総合能力評価の中の資質としては、会社の目標に向かって一緒に仕事をするうえで望ましい資質を持っているかどうかが評価のポイントになります。

 資質(人間性・人徳・人格)の重要性はすでに述べている通りです。経営者の人間性に問題があると企業カルチャーが徐々に蝕まれ、社員のエンゲージメントが下がり、結果として業績の低下や不祥事に繋がってしまいます。企業カルチャーや社員エンゲージメントというのは、人間の身体で言えば自律神経や血液の流れなどの体質に当たり、健康な身体のベースです。良い体質を作るためには日々の習慣が重要であり、西洋的な対症療法では改善できません。役職が上って部下が増えれば増えるほど、資質の重要性は高まります。しかし役職に就く頃になって「さあ、人格が重要ですよ」と言われても、短期間で醸成できるものではありません。若手のうちから人格・人徳を意識して日々磨いてもらう必要があります。

【資質の評価項目とポイント】

  • 誠実さ; 嘘をつかない、言ったことはやる ⇒ 社会人として最も大切な信頼・信用のベース
  • 共感性; 人の気持ちに寄り添える、他人の苦しみ・悲しみ・喜びをわが事として共感できる ⇒ 傾聴からの共感は良いコミュニケーションの基本、共感の本質は知的にも感情的にも相手を深く理解すること
  • 勇気 ; 挑戦する、プレッシャーに負けずに表明し実行する ⇒ 何かを新しく創ったり変革したりするためには絶対に必要、勇気をもって実行できない人は成功できないリーダーとして重要な決断をする場合などにも極めて重要な資質
  • 率直さ; 裏表がない、忖度せずにものを言う ⇒ 誠実さともつながるものであり、率直な態度や議論は風通しの良い健全な企業カルチャーの基本
  • 度量 ; 多様なものを受け入れる、ふところが深い ⇒ 多様性をパワーに変えるために必要な資質、経営者などのリーダーには必須
  • 謙虚さ(素直さ); 批判や注意など耳の痛いことを受け入れ、糧とすることができる ⇒ 謙虚でないと個人も会社も成長できない
  • 柔軟性; 様々な状況に対応できる、良い意見だと思えば自分の意見を修正する ⇒ 謙虚さにも通じる資質、安定した感情と自分を信じる気持ちが必要
  • 公平・公正 ; ルールを守るうえで相手の地位などにかかわらず公平に扱う、常に公明正大に物事を考え実行している ⇒ リーダーに公平・公正性が無いと組織の基盤が腐る
  • 品格 ; 信念をもって自分を律している、恥や卑しさを正しく意識している、厳しい局面では自分が矢面に立つ、失敗は自分の責任・成果は部下の手柄とする ⇒ やたら頑固ということではなく柔軟性とも共存すべきの、部下がついていきたいと思うリーダーの資質
  • 利他 ; 自分第一ではなく、他人や社会を第一に考える ⇒ Win-Loseではなく常にWin-Winを基本に考えているか

 わたしは、人徳のある人とは一言で言えば「自分の欲や怒りに振り回されず、利他の心をもって生きている人」だと思っています。上記の評価項目は人徳のある人が持っている資質です。

 資質を評価するうえで注意したいのが、評価すべき資質と特徴を混同しないことです。特徴とは、多弁か寡黙か、楽観的か悲観的か、アグレッシブか慎重派か、などが挙げられます。これらはどちらが良い悪いというものではなく、例えばチームアップの時に組み合わせの参考にしたり、状況によっては使い分けも必要なものであり、評価には馴染みません。

 資質を評価するときは、本人の明らかな長所と言える資質はどれか、あるいは明らかに欠けている資質はどれかを、具体的事例とともに挙げてもらうのが良いでしょう。その際には360度評価により、客観性を持たせることがとても重要です。360度評価は本人へのフィードバックの納得性を上げ、本人の気づきをもたらし行動変革に繋げるためにも非常に有効です。

 京セラ創業者の稲盛和夫氏は著書「生き方」で以下のように述べています。(※一部編集しています。    「人生の方程式とは「人生・仕事の結果=考え方 × 熱意 × 能力」であり、この式の中で最も重要なのは「考え方」というファクターです。 ・・・ ここでいう「考え方」とは生きる姿勢、つまり哲学や思想、倫理観などのことであり、それらすべてを包含した「人格」のことでもあります。この方程式はかけ算であり、「考え方」が重要なのはこれにはマイナスポイントがあることです。 ・・・ 人生・経営の原理原則には「人間として何が正しいのか」という極めてシンプルなポイントに判断基準を置こうと考えたのです。嘘をつくな、正直であれ、人に迷惑をかけるな、人に親切にせよ ・・・ 人間として正しいか正しくないか、良いことか悪いことか、やっていいことかいけないことか、そういう人間を律する道徳や倫理をそのまま経営の指針や判断基準にしました。」「利を求める心は事業や人間活動の原動力になるものです。しかしその欲を利己の範囲のみにとどまらせてはいけません。会社を経営するという行為を取ってみても、すでにそれだけでおのずと世のため人のためになる「利他行」を含んでいるものです。(自身が電気通信事業に乗り出すに当たっては)「動機善なりや、私心なかりしか」ということを何度も何度も自分の胸に問うて、その動機の真偽を自分に問い続けたのです。」

 スターバックス・ジャパン元CEO岩田松雄氏の著書「ついていきたいと思われるリーダーになる51の考え方」という本はとても示唆に富んでおり、自分が部長職を務めるうえでの座右の書でした。岩田氏はその中でリーダーについて以下のように述べています。(※一部編集しています)   「部下の中で最も厄介なのは、仕事はできるが性格が良くない部下です。協調性もなく、リーダーの言うことも聞いてくれない。平気でチームの輪を乱してしまったりする。こういう部下を評価したり抜擢したりしてもいいのか、私の答えはノーです。組織ではポジションが上に行けば行くほど、求められる能力は「スキル系」の能力よりも「人格系(徳)」の能力が大きくなっていくと私は思っています。本当に優れたリーダーになるのに欠かせない能力は「人間力」です。では部下が付いていきたいと感じる人間力とはどのようなものか。それは「無私の心を持つ」ということです。私心を捨てる、自分のことを一切考えないと言い換えても良いかもしれません。・・・リーダーが人間性を示せるのは、結局のところ日々の行動だと思います。」

 お二人が「無私のこころ」について共通して述べています。松下幸之助氏の著作などをみても、自分を一番に考えず利他のこころを持つということは、トップリーダーにとってとても大切なことだと思います。

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人事評価#9 総合能力評価の項目④ (情熱)

自燃性、可燃性、不燃性

 情熱は仕事に対してやる気を持って、モチベーション高く働いているかどうかを評価します。高い能力や専門性を持っていても、やる気がなければ成果に結びつけるのは難しく、周囲のメンバーに悪影響を及ぼす場合もあります。

 情熱というと、大声を出して精力的に動き回るような印象がありますが、そのような瞬発力とともに、成果を上げるためにコツコツとあきらめずに粘り強く頑張り続ける情熱も必要です。最近良く出てくるようになったエンゲージメントという言葉も、やる気を持って仕事に取り組めているかということだと理解しています。

 モチベーション高く積極的に仕事に向かっているか、困難な状況でも粘り強く仕事を進めようとしているか、成果にコミットし高いエンゲージメントで働いているか、などが評価ポイントになります。

 京セラ創業者の稲盛和夫氏は著書「生き方」で以下のように述べています。(*一部編集しています)   「人間には自燃性、可燃性、不燃性の三つのタイプの人がいる。周りからエネルギーを与えられても燃え上がらない不燃性の人は、せっかくの能力を発揮せず終わることが多い。そういう人は会社にいてもらわなくても良い。少なくとも燃える人が近づけば一緒に燃え上がる可燃性の人であってほしい。そして物事を成すのは、自ら燃え上がりさらにそのエネルギーを周囲にも分け与えられる自燃性の人である。」と言っています。評価においてはこの自燃性、可燃性、不燃性のどのタイプであるかを見極め、自燃性の人を評価したいものです。

 また「断じて行えば鬼神もこれを避く」という言葉があるとおり、ビジネスの世界でもここぞという時のリーダーの情熱・勇気・気迫は非常に重要であり、そういう強い気持ちを持てるかどうかもリーダーに必要な資質として評価したいポイントです。

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人事評価#8 総合能力評価の項目③ (能力(3)専門性)

業務ごとに固有の専門的業務遂行能力

 基礎能力やリーダーシップ・マネジメント力などの汎用的能力に対して、専門性は業務ごとに固有の専門的業務遂行能力についての評価です。仕事をする業務領域で成果を出すためには、その領域の専門的知識や技能、資格取得などが必要です。

 専門性をどういう業務領域で区分するのか、専門性レベルをどのように表示するかは、企業にどのようなビジネス・職種があり重要度をどう考えるかにより様々です。

 また業務ごとの専門性には、基礎能力やリーダーシップ・マネジメント力の各項目と重複する場合もあり重要度にも濃淡があります。評価のポイントなどは業務領域ごとに個別に設定すべきです。

 専門性はその業務領域での経験が長いほど高くなる傾向にあります。一方で様々な領域に異動する人は多様な領域の専門性を保有することになります。一つの業務領域が長くスペシャリストとしてのキャリアを歩む人と、様々な業務を経験してゼネラリストとしてキャリアを積む人は、リーダーとしてどちらが上でどちらが下ということはありません。したがって専門性はリーダー選抜の評価項目としては、あくまでも参考データにとどまります。

 人事部門としては、保有する専門性は異動やポスト登用の際の参考データとして重要ですので、社員が保有するスペックとしてしっかり記録して活用すべきものです。

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人事評価#7 総合能力評価の項目② (能力(2)リーダーシップ・マネジメント力)

他者への働きかけによりチームで成果を上げる能力

 リーダーシップ・マネジメント力では、他者との関係性の中で付加価値を発揮し、チームで成果を上げる能力を評価します。

 組織の目標を自分事として捉え、自分を基点に、上司も含め関係者を巻き込んで仕事を動かす能力であり、基礎能力とともに業務領域にかかわらず必要な汎用的能力です。またタスクマネジメントの一部など自分自身を管理するセルフマネジメントという側面もあります。

① リーダーシップ・チームワーク

 組織の成果のために自分の役割を理解し貢献しているか、を評価します。

 チームの成果に当事者意識を持っているか、指示待ちではなく能動的に責任感を持って行動しているか、自分を基点に関係者を巻き込んでチームを動かしているか、チームリーダーは風通しの良い組織を作れているか、ビジョンや方向性を共有してチームを導いているか、などが評価ポイントになります。

➁ タスクマネジメント

 仕事の難易度と量を把握し、段取りをつけて管理する能力を評価します。生産性を上げて効率的に仕事を進めるうえで重要な能力です。

 プレイヤーとしては自分の仕事に優先順位をつけ、段取りを考えて期日と品質を管理できているか、リーダーは仕事の難易度とメンバーの力量を見極めタスクを適切に配分できているか、つまづいている要因を的確にとらえて手を打つことができるか、などが評価ポイントになります。

③ コミュニケーション

 上司、部下、チームメンバー、仕事の相手方などの関係者と、必要なコミュニケーションを円滑・有効に取れているかを評価します。

 自分の意見を一方的に押し付ける、相手の意見を聞いているようでいて理解・共感しようとしていない、態度が悪く周囲と良好な関係が保てない、怒りの感情を制御できず冷静な対応ができなくなるなどの行動はコミュニケーション力が高いとは言えません。

 相手の話を理解し共感しようとする姿勢で傾聴しているか、自分の意見を相手に的確に伝えられているか、率直で建設的な議論ができているか、などが評価のポイントになります。

④ 指導・育成力

 チームメンバーの成長につながる指導・育成力を評価します。

 メンバーの強みと課題を的確に把握しメンバーの特性に合った指導ができているか、具体的で分かりやすいフィードバックを行っているか、メンバーに気づきを与えて自律的な成長に繋げているか、などが評価ポイントになります。

 元マッキンゼーの伊賀泰代氏は著書「採用基準」の中で、リーダーシップとは「チームの成果の為に必要なことをやる」ことであり、チームリーダーはもちろん全てのメンバーに必要だと述べています。

 チームリーダーのリーダーシップについては、先頭に立ってメンバーを引っ張るタイプや仕組みを作って自律的にメンバーを動かすタイプなどさまざまです。どのタイプが良いかは、平時のリーダーか危機時のリーダーかによっても違い一概には言えませんが、上記①から④については企業のリーダーにすべからく必要になる能力だと思います。

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人事評価#6 総合能力評価の項目①(能力(1)基礎能力)

基礎能力  = インプット力 → 思考力 → アウトプット力

 それでは、評価項目について説明していきましょう。まずは能力のうちの基礎能力についてです。基礎能力はリーダーシップ・マネジメント力とともに全ての仕事に通じる汎用的能力です。基礎能力は「①知る」「②理解する」「③意見を持つ」「④表明する」「⑤実行する」の5項目に分かれ、個人として発揮できる能力・スペックを評価するものです。「知る」はインプット力、「理解する」「意見を持つ」は思考力、「表明する」「実行する」はアウトプット力となります。

① 知る(インプット力)

 必要な知識や情報を自分自身にインプット(入力)する能力です。質の高い情報を必要十分な量だけ獲得することが、正しく思考するうえで大変重要です。

 必要十分な知識・情報を収集できるか、そのためにツールを駆使したりネットワークの構築ができているか、事実(ファクト)と意見を区別できているか、アンテナ高く情報を感知できているか、アウトプットした結果のフィードバックを経験知として生かせるか、などが評価のポイントになります。

② 理解する(思考力)

 インプットされた情報を整理して、理解する能力です。

 論理的思考(ロジカルシンキング)ができるか、情報を深掘りして本質や真因を見極められるか、関連性を持って類推し整理できるか、直観力も駆使して本質を捉えているか、などが評価ポイントになります。

 ➂にも共通しますが、論理的思考力とともに切り口や目線を変えてみる柔軟性、思考意欲(考えることに積極的な姿勢)や思考体力(粘り強く考え続ける力)なども思考力を評価するうえで重要です。

③ 意見を持つ(思考力)

 理解した情報をもとに、自分の意見を構築する能力です。誰かの意見ではなく、自分なりに深く考え抜いた意見を持つことはとても重要であり、リーダーにとって不可欠な能力です。

 理解した情報から課題認識を持ち解決策を考えているか、スピード感をもって判断しているか、比較衡量・取捨選択・優先順位付けなどを的確に行っているか、将来あるべき姿やビジョンを描けているか、直観力、想像力の質の高さなどが評価のポイントになります。

④ 表明する(アウトプット力)

 自分の意見を表明する能力です。どれだけ物事を整理して素晴らしい意見を持っていても、表明しなければ付加価値はありません。

 自分の意見や疑問を勇気をもって積極的に発言しているか、ロジックをもって分かりやすく簡潔・的確に伝えられているか、文章力やプレゼンテーション力などが評価のポイントになります。

⑤ 実行する(アウトプット力)

 評論家で終わらずに、実行し実現することで組織に貢献しているかを評価します。

 勇気をもって挑戦しているか、言うだけ番長で終わらずに実際に行動に移しているか、能動的・積極的に行動しているか、が評価のポイントになります。実際に実行に移したことが成果に結びつくかどうかはリーダーシップ・マネジメント力や情熱・資質なども深く関係しますが、基礎能力としてはまず実行に移して粘り強く成果に向けて努力できるかどうかを評価します。

 経営コンサルタントとして世界的に有名は大前研一氏は、問題解決(PSA=Problem Solving Approach)の3つのステップとして、「本質的問題の発見」「問題解決策の立案」「施策の実施」としています。その3つのステップを分解すると、今回の「基礎能力」と「リーダーシップ・マネジメント力」となります。

 また、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏は、著書「人事の企み」のなかで、複雑さや変化スピードが増していく環境でのリーダーには、複雑な問題に対処できる「汎用的対処力」が必要であり、「汎用的対処力」とは課題の重要要素を素早く理解し、その分野の専門家(プロ)を使いこなすことが重要だと述べています。課題への理解力はまさに今回の「基礎能力」に該当し、専門家を使いこなす能力は「リーダーシップ・マネジメント力」と人間的魅力つまり「情熱」「資質」となるでしょう。

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人事評価#5 総合能力評価の構成

総合能力評価 = 「能力」×「情熱」×「資質」

 リーダーの選抜・育成のための総合能力評価は、大きく分けて能力・情熱・資質の三項目で構成されています。

 「能力」はクルマで言うと性能・スペックに当たります。当然ですが性能が悪いクルマは早く正確には走れませんし、事故の危険も大きくなります。会社に貢献してくれる人材を評価するうえで欠かすことのできない基本項目です。「能力」はさらに基礎能力/リーダーシップ・マネジメント力/専門性に分かれます。

 「情熱」はクルマで言うとガソリンに当たります。どれだけスペックの高いクルマでもガソリンがなければ走りません。同様にどれだけ能力の高い人材でも、やる気がなければ成果を上げることは難しくなります。「情熱」はやる気、モチベーション、エンゲージメントの高さや粘り強さなどを評価します。

 「資質」はクルマで言うと運転者自身に当たります。すごいクルマでガソリンもたっぷり入っていても、運転者自身がおかしな方向に運転してしまうと目的地にはたどり着けません。リーダーの資質に問題があると、チーム全体がおかしな方向に向かってしまったり、チームの雰囲気に悪影響を及ぼしてしまいます。若手プレイヤーの場合は周囲の人への迷惑くらいに留まりますが、ポストに付いている人から役員まで部下が多くなればなるほど、資質の重要性は高まります。

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人事評価#4 活躍に報いる評価とリーダーを選抜する評価

目標成果管理と総合能力評価

 リーダーを選抜するためには、目先の実績だけを評価していてはいけないと書きましたが、実際に現場で活躍して実績を上げている人をしっかり評価してあげることが必要なのは言うまでもありません。現場で成果をあげている担当者や、チームを率いて成果を上げているチームリーダーを適切に評価し処遇してあげないと、会社の業績は成り立ちません。

 西郷隆盛の言葉に「功あるものには禄を与えよ、徳あるものには地位を与えよ」いうものがあります。織田信長の言葉を引用したとも言われていますが、現在の企業に当てはめると「社員の実績には処遇で報い、人徳と能力がある社員をリーダーとして選抜すべし」と読めます。実績に報いるためにする評価と、リーダーを選抜するための評価は、目的が違うので別の評価体系を使うべきだと思います。

 一定期間の活躍・実績を評価するためには、目標成果管理(MBO)が適していると思います。その期間に期待される成果が上げられたかどうかを評価し、結果は賞与などの処遇に反映させます。こちらは現場の上司の期待に応えて活躍しているかどうかを評価するものです。

 一方、リーダーを選抜するのは総合能力評価です。これは言わば「こういう社員にこの会社のトップリーダーになってほしい」という姿を、評価項目によって示すものです。若手の担当者時代には相対的に重要度が高くない「資質」(人間性・人徳)についても、若手のうちから意識させます。そうでないと、役員になってから「さあ人徳が必要ですよ!」と急に言われても、一朝一夕で磨けるものではないからです。

 総合能力評価には、自己評価および上司からの評価とともにいわゆる360度評価をぜひとも導入したいところです。総合能力評価の項目はいずれも定性的なものになり、どうしても主観的な評価にならざるを得ません。360度評価によって、上司からだけでなく部下や同僚、関係者からの声を聞く、つまり主観を集めて客観化することで公正性と納得性を確保することができます。上司が「愛いやつ」を評価しようとしても、横や下からの評価が低い場合は人事部が評価の適切性を指摘し、場合によっては評価を変更できます。あまりにも恣意的な評価をしている上司は、上司自身の人を見る目に疑いが持たれ評価が下がることになります。

 また総合能力評価は、リーダーを選抜するとともに、社員をリーダーに育成することが大きな目的です。上司は本人の強みと課題を、360度評価での周囲の声と合わせてフィードバックし、本人に気づきと課題を与えることが重要です。

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