女性活躍 クオータ制について #3

クオータ制反対の理由② 社員エンゲージメントの問題

次にクオータ制に反対の理由二点目、社員エンゲージメントの問題です。特に日本型と言われるメンバーシップ型(※) や領域限定型の人事制度を採用している会社では、社員は昇格を目指して頑張ることになります。担当者から課長職相当、部長職相当を経て、役員を目指します。中途採用の社員も、総合職であれば入社後は同様の競争の中で昇格をめざします。

(※) 人事制度については、本ブログの人事制度シリーズ「ハイブリッド型人事制度」をご参照ください

 社員には男性・女性の他にも新卒・中途、大卒・高卒などさまざまな出自や経験の社員が混在していますが、昇格するための選抜は当然ながら実力本位が大原則となります。例えば中途入社より新卒採用の社員の方が昇格しやすいとなれば、中途入社社員のモチベーションは落ちてしまうでしょう。役員や部長の数において一定比率を女性にすると宣言するクオータ制は、まさにこの問題をはらんでいます。

 全員を部外者から同時に選ぶ議員や委員会などは別として、一定の社員候補者の中から昇格・登用させる会社では、女性役員のクオータ制は実力本位ではなく女性にゲタを履かせることになり、昇格を目指して頑張っている男性社員のモチベーションを下げることになります。また実際に実力があって選抜される女性社員にとっても「ゲタを履かされているのだろう」と思われることは不本意でしょうし失礼なことです。

もちろん昇格候補者以上に実力のある女性役員、女性部長を外部から採用してくることはアリですが、本当に社内の候補者より実力が上だと周囲から認められる事が必須です。そうでなければ、会社においてクオータ制を宣言することは、「実力本位ではない昇格・登用を行います」と宣言することに等しくなります。そして昇格・登用が実力どおりに行われないことくらい社員のモチベーションを下げることはないのです。

  一点目の通り女性管理職の数と業績に明確な相関関係が見出せない中で、社員のエンゲージメントを下げるおそれのある制度を導入することは、合理的ではないでしょう。

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女性活躍 クオータ制について #2

クオータ制反対の理由① 日本経済との相関関係

クオータ制反対の理由の一点目、日本の経済状況と女性管理職との関係について見てみましょう。下表のとおり、日本のGDPは高度成長期を経て1980年US$1.13兆から1995年のバブル期にUS$5.55兆まで5倍近く拡大し、一人当たりGDPは世界17位から3位(最高は世界2位)まで右肩上がりで伸びました。その期間の管理職女性比率は、7.0%から9.8%と伸びてはいるものの、それ以降の伸びと比べると顕著なものとは言い難いものです。

その後、失われた20年を経て2021年には日本のGDPはUS$4.93兆まで約10%縮小し、一人当たりGDPは世界28位まで下がりました。一方その間、上場企業の女性役員数は60名から3,000人超まで50倍に増え、女性役員比率は0.75%から7.50%まで劇的に増加しました。管理職女性比率も9.8%から2020年には15.7%と1.5倍になりました。

 確かに欧米と比べると、企業における女性役員の比率などはまだ大きく見落りします。内閣府男女共同参画室が出している諸外国の女性役員割合によると、2021年は日本12.6%に対して、米国29.7%、ドイツ36.0%、英国37.8%となっています。 女性活躍の意識や環境整備の遅れ、女性の就業観の違いなど様々な要因があると思われます。しかし時系列データを見る限り、バブル崩壊までの日本経済の拡大とその後の失われた20年の凋落は、女性の役員や管理職への進出と相関関係があるとはとても言えない結果です。日本経済の凋落を女性進出の遅れと関連づけてクオータ制導入を声高に叫ぶ意見には違和感を覚えます。

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女性活躍 クオータ制について #1

女性活躍賛成、クオータ制は反対

 女性活躍は、少子高齢化が進む日本の中で労働力としての女性への期待が高まる一方、出生率を上げるために出産・育児(男性の参加も含めて)との両立支援が必要であり、とても重要なテーマです。

その女性活躍の議論の中で、日本は議員や会社役員における女性比率が欧米に比べて低く女性の登用が遅れているので、解決策として「クオータ制」つまり一定数や一定割合を女性にする制度を導入すべきという意見が良く聞かれます。例えば、ある国の男女の比率が50%ずつだとしたら、国会議員の男女比率も50%ずつにするというルールを導入すべきという意見です。

 わたしは、クオータ制には一定の効果はあるものの、クオータ制を無理やり導入して一定の男女比率をすぐに達成しようとすることには懐疑的です。議員数や公的な委員会などは導入の余地はあると思いますが、特に会社の役員や管理職の昇格数などにクオータ制を導入する事は、明確に反対の意見です。

 誤解されると困るのですが、わたしは女性より男性の方が会社員として優れているなどとは全く考えていません。また女性が活躍するための産休・育休などの制度の充実やメンターなどのサポートは、どんどん推進すべきだと思っています。今時そんな会社は少ないと思いますが、男尊女卑や女性は家庭を守るべきといった考えが残っていて、女性が昇格や登用でワリを食っているとしたら、すぐにでも改めるべきだと思います。

ではなぜクオータ制には反対なのか。理由は二つあります。一つは時系列データを見ると女性役員や管理職の比率と日本経済に明確な相関関係を見出せない事、もう一つは企業にとって最も大切な社員のエンゲージメントを下げるおそれがある事です。

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自己を磨く#おまけ

坐禅のススメ

 おまけとして、心・技・体を磨く方法としての坐禅(瞑想、マインドフルネス)をご紹介します。この項はあくまでもわたし自身の体験と実感に基づいたものであることを予めご了解いただくとともに、坐禅にご興味のない方はスルーしていただければと思います。

 わたしは2002年頃に初めて会社で部下を持つようになり、部下の人生に一定の責任を感じたときに、自信を持って部下を指導するだけの背骨を持っていないことを実感しました。仏教や禅には若いころから興味を持って本はよく読んでいましたが、どの本にも「禅は実践しなくては本当のところは分からない」と書いてありましたので、それではと本を頼りに自己流で坐り始めました。その後、禅寺の坐禅会などにスポットで参加しながら、自宅で坐禅を続けております。

 昨年2021年の暮れにこの人はと思う老師(禅の師匠)と出会えたので、いよいよ本格的に修行したいと思っていますが、現在ははるかな禅の道の門の前に立っている程度のレベルです。それでも坐禅を続けてきたことで、ものすごく沢山のものを得たという実感があります。と言うより、坐禅がなければ社会人人生のどこかで心が折れてしまっていたのではないかとさえ思っています。

 わたしの坐禅はごくシンプルで、足と手を組んで姿勢を正し、呼吸から意識を離さないようにする随息観というものです。最初は呼吸に集中しようとしてもいつの間にか考え事をしてしまい、2~3回呼吸を意識するのが精いっぱいで雑念まみれになって愕然とします。しかし徐々に呼吸を意識する時間が長くなってくると、今度は雑念が出てくる瞬間が分かるようになり、「なるほど、こうして自分の意識が雑念に引っ張られていくんだな」ということが分かってきます。そして雑念が出てくる瞬間に気づくと、雑念は自然に消えていくのです。それを続けていくと、日常で「自分の感情」だと思っていたものが、しょせん雑念に持っていかれただけであり、雑念が消えたあとの自分がいることに気付きます。自分が薄まっていくような感覚です。この程度のことは、坐禅修行の序の口のそのまた序の口を10回繰り返すようなレベルであり、本格的に修行をするともっともっと深い境地に達していくようです。しかし自分が薄まっていくという感覚は、それだけで多くのことをわたしに気付かせてくれました。

 人格中心リーダー選抜シリーズの「資質」のところで述べましたが、松下幸之助さんや稲盛和夫さんなどの人格に秀でた名経営者が、口をそろえて「無私のこころ」の大切さを説いています。自分が薄まっていく感覚というのは、実はこの「無私のこころ」に少し近づいているのではないかと思えるのです。

 仏教では、人間の苦しみの根源は三毒(貪欲・瞋恚・愚痴=むさぼり・いかり・おろかさ)であり、それは自分というものを立てることから生じると言われています。ちょっと難しいですが、自分が薄まるとこの三毒が薄まってきて感情が波立たなくなってくることを実感します。心・技・体の”心”の部分に効くのです。

 感情が波立たなくなると頭のなかがクリアな状態になり、静かな水面に物がきれいに映るように物事がそのままの姿で見られるようになります。そうなると物事の本質を捉えやすくなるのです。自分が薄まると余計なことを考えなくなりますので頭の回転がスムーズになり、さらさらと自然に判断できるようになります。また自分の判断に自信が持てますので肚も据わってきます。

 また坐禅をすることは、自分の意識と向き合い自分の心を観察することになります。これは他者とのコミュニケーションの際にとても役立ちます。この人は裏に何か隠し持っているな、この人は感情に流されはじめているな、雑念が湧いておかしな判断になってきたな、など相手の心の動きが見えやすくなるのです。相手の心が見えるとこちらはますます落ち着いて、有効な対応が取れるようになります。これらは心・技・体の”技”の部分に効いていることになります。

 そして坐禅は心・技・体の”体”にも効きます。坐禅をすると自然に呼吸が深くなり、セロトニンという神経伝達物質が分泌されてリラックスを促し、副交感神経を優位にして自律神経バランスを整えると言われています。難しい説明をしなくても、坐禅をすればスカッと爽やかな気持ちになることが実感できると思います。自分磨きシリーズで触れましたが、寝る前に坐禅をすると入眠がとてもスムーズになり、重要だと言われている入眠後3~4時間の睡眠の質が高まるように思います。そして三毒が薄まることで怒りの感情が少なくなり、万病のもとであるストレスが軽減することは、もちろん身体によい影響があるでしょう。

 最後に、坐禅って宗教でしょう!宗教の勧誘か?と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、わたしは禅宗に入信しているわけではありません。ここで紹介している坐禅は瞑想・マインドフルネスと置き換えても良いと思いますが、自分と向き合うトレーニングといった感覚でとらえていただければと思います。大切なのは自分の心、意識と静かに向き合うトレーニングをしていくと、いろいろな気付きがあり、自分磨きの心・技・体すべてに良いことづくめですよとおススメしている次第です。お寺の坐禅会など無料で体験できる機会はたくさんあり、初心者の方でも丁寧に教えてくれますので、機会があればぜひ体験してみてください。

”21Lessons” ユヴァル・ノア・ハラリ著(サピエンス全史、ホモ・デウス著者)より抜粋

  • ティーンエイジャーや大学時代には、人生についての大きな疑問の数々に答えが全く見いだせなかった。
  • 読んだ本や大学で得たナショナリズムの神話も、宗教神話も、資本主義の神話もすべて虚構だった。
  • そんな時に出遭ったヴィパッサナー瞑想(*)によって、自分の心を詳しく観察すればするほど、瞬間瞬間で持続するものなど何もないことがはっきりした。
  • 魂・自分というものが持続して、人生をひとつにまとめているというのは、ただの物語にすぎない。
  • 自分は初めて講習を受けて以来、毎日二時間の瞑想を欠かさないようになった。
  • 瞑想の実践がもたらす集中力と明晰さがなければ、「サピエンス全史」も「ホモ・デウス」も書けなかっただろう。

*ヴィパッサナー瞑想: 日本で主流の大乗仏教に対して、上座部仏教(インドからミャンマー、タイなど南方に広がった仏教)で用いられる瞑想。自分を観察することにより真理に気付く修行方法であり、坐禅とおなじ仏教系統のマインドフルネスの方法です。

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自己を磨く#4

心・技・体の”心”は人間性、人格、人徳

 では最後に”心”、人間性、人格をどう磨くのかについて述べたいと思います。と言っても、これは非常に難しく、わたしが偉そうなことが言える立場ではありません。一つの意見としてお聞きいただければと思います。

 人間は哺乳類であり、大きく言えば生き物です。では人間性、他の生き物と人間の違いは何でしょうか?いろいろと違いはありますが、最も大きな違いは「自分」と対話できることでしょう。もちろん犬や猿が自分と対話していないと断言することはできませんが、「自分」という概念をもってもう一人の「自分」と対話することができるのは、たぶん人間だけです。「自分はどう生きるのか?」ということを「自分」と向き合って深く考え実践していくことが、人間性・人格を磨くことだと思います。

 人間性を磨くというと、哲学や宗教などが思い浮かびます。西洋哲学や儒教や道教などの東洋思想、キリスト教・仏教・イスラム教などの宗教など多種多様ですが、「いかに生きるのか」を深く考えるうえで、過去の哲学者や思想家の考えは大いに参考になるでしょう。

 また歴史上の人物伝などを読んで、過去の人物がどのように考え実践し結果としてどうだったのか、どういう人が人徳がある人として尊敬されているのかを知ることもとても参考になります。現実に近くにいる人で尊敬できる人がいれば、その人をなぜ尊敬できるのか、見習うべきところはどこかを考えることも大切だと思います。

 そして人間性を磨くために一番大切なことは実践です。どれだけ立派なことを考えていても実践できなければ、実際の場面で発揮することができなければ、考えていないのと同じことです。小学校の道徳の授業で教わるようなこと、ご両親から幼いころに教えてもらった「うそをついてはいけません」「他人には親切にしなさい」といった簡単なことを、愚直に実践することこそ大切です。

 「陰徳を積む」という言葉があります。人の見えない、人に知られないところで善い行いを積んでいくことです。徳のある人は陰徳を積むと言いますが、言い方を変えると陰徳を積んでいくことで人間性が磨かれるとも言えます。他人の見ていないところで落ちているゴミを拾ったりという小さくても陰徳を積む行為は、他人にアピールするのではなく「自分」に向き合う行為であり、人間性を磨くことになります。

 仏教に「諸悪莫作 衆善奉行(しょあくまくさ しゅうぜんぶぎょう)」という言葉があります。悪いことをしないようにして、善い行いをしなさいという意味です。中国の詩人白居易が高僧に禅の神髄を尋ねたところ、「諸悪莫作 衆善奉行」と言われました。白居易は「そんなことは3歳の子供でも知っていますよ」と不満そうに言ったところ、禅僧から「3歳の子供でも知っているが、80歳の老人でもなかなかできていない」とたしなめられたという逸話が残っています。大人になるといろいろ都合の良い言い訳を考えだして、かえって簡単で大切なことができていません。知っているのとやっているのでは大違い、ということを謙虚に肝に銘じたいものです。

 自己研鑽は心・技・体すべてにおいて考えているだけでは意味がなく、実践してナンボだということです。どのように自分を磨くかを良く考えることも非常に重要ですが、習慣になるまで実践することで初めて身に付きます。やってみて自分に合わなければやり方を工夫するなどいわゆるPDCAを回すことで、自己の磨き方自体もどんどん磨かれていくことになります。

 自己を磨くことは年齢、環境に関係なくいつからでもスタートでき、どこまでも成長することができます。心・技・体をバランス良く磨くことで人間として成長し、ビジネスパーソンとしての付加価値を高め、人生を楽しく前向きに歩んでいきましょう。

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自己を磨く#3

心・技・体の”体”は健康、体力

 次に”体”つまり健康、体力についてです。健康、体力を維持するためには、生活習慣、具体的に言えば食事・睡眠・運動が大切です。

 まず食事ですが、体を作る材料はすべて食事から摂るわけですから、食事が大切なのは当たり前ですね。バランスよく食べることに尽きるのでしょうが、特に血管や血液サラサラは意識したいものです。身体全体に栄養を行きわたらせ、不要物を排泄するのが血液ですから、サラサラ流れていることが良い体質を作るうえで必須です。糖分が多いドロドロの血液がコレステロール過多で狭くなった血管で流れにくくなってしまうと、身体全体にいかにも悪そうに思えます。

 次に睡眠、これは自律神経のバランスを整えるうえでとても需要です。良い体質を保つうえで、血液サラサラとともに自律神経バランスは両輪です。自律神経のバランスとは、交感神経と副交感神経のバランスのことで、特に現代社会は刺激が多いため交感神経優位になりがちだと言われています。自律神経バランスが崩れると免疫力が低下して体調が崩れやすくなるうえ、メンタルにも影響を及ぼします。バランスが崩れる原因はいろいろありますが、睡眠がとても大きな原因だと言われています。睡眠の質の向上についてもいろいろな方法があるようですが、まずは睡眠時間の確保でしょう。人によって差はあると思いますが、6~8時間は確保したいものです。あまり短い睡眠時間を続けていると、年を取ってから体にいろいろな影響が出てくるように思えます。また睡眠は脳や体を休めるとともに、その日にあった記憶や思考などを脳内で整理する働きもあるようです。「寝る子は育つ」は子供だけの話ではないようです。わたしは夜寝る前に20~30分の坐禅(いわゆる瞑想と考えてください)を習慣にしていますが、睡眠に入るのがとてもスムーズになり睡眠の質も向上することを実感しています。

 最後は運動です。運動は有酸素運動(ジョギングやウォーキング)と無酸素運動(ダッシュや筋トレなど)に大きく分かれます。有酸素運動は持久力を高めるとともに自律神経にも良い影響を与えると言われています。無酸素運動は筋肉を成長させ瞬発力を高めるとともに、筋肉量が多くなることで基礎代謝が高まり太りにくくなります。こちらは時間との関係もあり何をどこまでやるかは人それぞれですが、スポーツの趣味を持ったりウォーキングを取り入れるなどの運動習慣は是非作りたいものです。ちなみにわたしは、週一回の筋トレとゴルフを趣味にしています。コロナでトレーニングジムにはもう2年以上行っていませんが、自宅でもダンベル一組あれば十分行えます。またゴルフではカートに乗らずに歩くことで、ウォーキング代わりにしています。

 健康・体力は年齢とともに衰えていくことは仕方ありませんが、食事・睡眠・運動の質と量を意識してマネジメントすることで、エイジングを遅らせパフォーマンスに大きな差がついていくことになると思います。

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自己を磨く#2

心・技・体の”技”は知識、技術、ノウハウ

 では心・技・体をどのように磨けば良いのかを考えてみましょう。まずは”技”についてです。”技”つまり知識、技術、ノウハウなどを磨くには、セミナーや通信教育、書籍やWebなどでさまざまな自己啓発の方法が紹介されていると思います。会社の仕事に関するものは、研修やセミナー、そして何よりOJTによって磨けるものだと思います。MBAなどの留学や通信教育はもちろん、本を読みながら日常業務で実践していくことでも十分に磨くことが可能です。

 様々なビジネス関連書籍も非常に有効です。ロジカルシンキングに代表されるようないわゆる頭の使い方、ものの考え方や、ビジネス文書の作り方、リーダーシップ論など読書&実践がノウハウを磨くためにとても有効です。また世界情勢や時事問題、歴史や芸術などさまざまな分野の本を読むことによって、実際に経験することが難しい世界を垣間見ることができ、自身の見識を広める意味でもとても有効です。

 本の読み方としては、純粋に娯楽として読む場合は別として、特にビジネス本などは自分で買ってポイントとなる文章やフレーズにマーカーを引き、関連して頭に浮かんだ考えがあれば余白に書いておくことをお勧めします。読み終わったらマーカー部分を読み返すことで全体の主旨がすんなりと整理できます。できれば裏表紙などに全体の概略や重要ポイントを書いておくとなお良いでしょう。クイックに再読することができますし、記憶にも長く留めておくことができます。

 また頭の使い方やものの考え方を磨くためには、常に自分の意見を言えるようにすると良いでしょう。ニュースや本をインプットした時に、そのポイントを整理して自分なりの意見を考えるようにする、できればそれを誰かに簡潔に話すように心がけると、基礎能力(知る→理解する→意見を持つ→表明する)を高める訓練になります。これを習慣にすると問題解決力が高まるとともに、会議の場やお客様との面談時などで素早く説得力のある意見を言えるようになり、ビジネスパフォーマンスが高まります。ぜひ実践してみてください。

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自己を磨く#1

自己を磨くとは、心・技・体を磨くこと

 リーダーを育成・選抜する人事評価シリーズでは、資質(人間性・人格・人徳)が重要であり若いうちから意識して磨くべきだと述べました。このシリーズでは、人間性も含めた自己研鑽・自己を磨くということについて考えてみたいと思います。

 ここで言う自己研鑽というのは自己の”総合力”を磨くということであり、自分の発揮できるパフォーマンスの質と量を大きくしていくということです。アスリートに例えると分かり易いと思います。卓越した成績を上げるトップアスリートは心・技・体が充実していると言われますが、自己を磨くとはまさに心・技・体を磨くことにほかなりません。そのためには訓練・トレーニングが欠かせないということになります。

 ではビジネスパーソンにとっての心・技・体とは何でしょうか?”心”は情熱、人間性、人格、”技”は知識や技術、ノウハウ、”体”は健康、体力のことだと考えれば良いでしょう。ビジネスパーソンとして成長していくためには、長距離走者としての持久力と短距離走者としての瞬発力のどちらも必要です。自己を磨く努力を続けていく持久力とともに、ここぞという時には最大出力でパフォーマンスを発揮する瞬発力も同時に磨いていく必要があります。

 そのためには心・技・体をバランスよく成長させていく必要があります。人間性が素晴らしくても知識や技能がなければビジネスパーソンとしてパフォーマンスは出せません。知識や技能があっても健康で体力がなければ努力は続けられないし、いざという時に頑張りが利きません。また技術・体力が十分にあっても人間性に欠陥があれば、せっかくの技術・体力が間違った方向に使われてしまいます。

 わたしは人事部長を四年間務めましたが、かなりの激務で毎日重さも大きさもたっぷりある案件が怒涛のごとく押し寄せてきました。それらをできるだけ正しく判断・決断していくためには、思考力や直観力はもちろん必要ですが、しっかり寝て健康でいなければ健全な判断を続けるための思考意欲や思考体力が維持できません。また自分の感情をできるだけ波立たせないようにして物事をありのままに見ることも、正しい判断のためには非常に重要でした。心・技・体のコンディションとバランスを常に良い状態に保っておくことは、仕事のパフォーマンスに直結する必須の自己マネジメントです。

 ちょっと話は横道にそれますが、わたしは「自己を磨く」ことを人生の目標にすることは、メンタルタフネスを獲得するために非常に有効だと考えています。メンタルタフネスとは逆境や失敗にめげずに立ち向かう精神力のことだと思います。逆境や失敗に対して「なぜこんなことになってしまったのか」といった後悔や「あいつがあんなことをしなければ。自分はなんてツイてないんだ」といった他責の念に絡め捕られてしまうと、いつまでたってもネガティブな感情から抜け出せずメンタルにも悪影響を及ぼします。また「こんな事じゃだめだ、もっと頑張らなければ」と思いすぎることも、糸を張りすぎて切れてしまうリスクがあります。

 一方人生の目的を「自己を磨いて、死ぬまで自分を成長させよう」と考えている人にとっては、逆境は自分を鍛えてくれるまたとない機会だし、失敗でさえも反省して成長する機会としてポジティブに捉えることができます。もちろん感情としては一時的に落ち込んでも、成長のための機会だと考えることで自然に前を向くことができます。わたしの経験でも、逆境に正面から立ち向かった期間は、後から見ると間違いなく成長できていたと実感しています。年を取って体力的には若い人に後れを取っても、人間性や知識・技能を磨くことで総合力で負けない付加価値を発揮できれば良いのです。「自己を磨く」ことを目的にすることは、人生を前向きに生きるコツとして、老若男女全ての人にオススメしたいと思います。

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人事制度#4 日本企業が導入すべきはハイブリッド型

ゼネラリストとスペシャリスト どちらも活躍できる制度へ

 メンバーシップ型の長所を述べてきましたが、特定領域で専門性の高いスペシャリストに活躍してもらうことも、会社としては絶対に必要です。

 業務知見が高いスペシャリストを処遇し育成していくという観点でも、ジョブ型のうちポスト限定型雇用制度は欠陥があります。ポストを限定してしまうと、その領域の専門家をジュニアから育成していくことが難しくなってしまうからです。

 外資系の金融機関などは、ポスト限定型ではなく業務領域限定型というべき雇用制度にしている会社が多い印象です。業務領域を限定しその中で専門性を磨きながら、成長とともに昇格していく制度です。これなら自社でジュニアを育成しながら、業務領域ごとに処遇テーブル(タイトルと処遇のマトリクス)を作成することで、中途採用でプロを高処遇で雇うことが可能となります。これからも日本でも業務領域を限定して活躍する「就社ではなく就職」したいスペシャリスト志望の若者は増えていくでしょう。

 一方で、様々な経験をして汎用的能力やリーダーシップを磨けるメンバーシップ型によるゼネラリスト育成も、見直されるべきだと思います。せっかくメンバーシップ型が根付いている日本企業では、メンバーシップ型とともにスペシャリストを育成・処遇できる業務領域限定型雇用のハイブリッド型が、これからの雇用制度として最もフィットするのではないでしょうか。

 新卒採用した若手社員は、まずはメンバーシップ型で業務適正を会社・社員双方で見極め、一人前になるタイミングで業務領域限定型に移行してプロのスペシャリストを目指すもよし、メンバーシップ型のままでゼネラリストとしてのキャリアを積んで経営者を目指すもよし、社員に選んでもらえば良いのです。

 業務領域限定型は、処遇水準は人材市場からプロのスペシャリストを中途採用できる水準にする必要があり、同じ業務のメンバーシップ型社員よりは高い処遇となるでしょう。一方業務領域限定型の社員は、能力やパフォーマンスが期待水準に達しない場合には、メンバーシップ型社員のように異動して他の業務にチャレンジすることができませんので、退職せざるを得なくなります。つまり業務領域限定型の社員は、処遇は高いがジョブセキュリティは低いという関係性になります。

 実際にわたしの所属する会社では、メンバーシップ型と業務領域限定型を併用しています。導入当初の業務領域限定型はプロ職として極めて限定的なものでしたが、いわゆる外人助っ人的位置づけから領域限定で働く社員へと定義を広げることで、業務領域限定型社員の比率は徐々に増加しています。ハイブリッド型雇用制度は、専門性を高めたい若手社員には業務領域限定型でスペシャリストのキャリアを可能にしつつ、ゼネラリスト志向の社員にはメンバーシップ型でリーダーシップや汎用的対処力を磨いてもらえる、いいとこ取りの制度だと思います。

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人事制度#3 日本型メンバーシップ型の効用➁

メンバーシップ型は若手の業務適正見極めとリーダー育成の双方に効く

 メンバーシップ型の長所としては、若手がいろいろな業務を経験して適正にマッチした業務を見つける機会があることが挙げられます。また激動の時代に必要なトップリーダーの資質として、非連続的な状況に対応できる汎用的能力が必要ですが、そのようなリーダーを育成するためにも業務領域をまたいだ異動により未経験の業務に対処ことが有効です。

 RANGE(デビット・エプスタイン著)という本では、「スポーツのトップ選手や有名音楽家などの芸術家、顕著な実績を残す科学者などは、ヘッドスタート(早くから専門分野を絞ること)ではなく、様々な可能性を試してゆっくり学習し、多様な知見を持っている人が多い。」「意地悪な環境(同じパターンが繰り返されない状況)では、経験よりも思考習慣、つまり経験の幅(レンジ)からいかにアナロジー(類推)を使えるかがポイントになる」と述べています。また画家のゴッホの例から、自分に何があっているか、つまり適正(マッチクオリティ)は実際にやってみるまで分からないと述べています。

 海老原嗣生氏も著書「人事の企み」の中で、これからの経営者は知らない環境でも対応していける汎用的対処力が大切であり、その育成のためには非連続的で複雑性がアップする任用(つまり未経験の業務を経験すること)やタフアサインメントが有効だと述べています。

 このようにメンバーシップ型雇用制度による業務領域を超えた異動は、若手の業務適正の見極めとトップリーダーの育成の両方にとても有効であり、ジョブ型制度よりも自然にそのような経験が積めることになります。

 日本型メンバーシップ型雇用制度には、以上のように会社・社員双方に様々なメリットがあり、しかも導入するにはいろいろな要素(社員の汎用的能力、会社の人事権など)とセットになるため、個人主義の欧米企業が導入したくてもできない制度なのです。こんな優れた制度をよく考えもせずに欧米型を盲信して捨ててしまうようなことは、絶対に避けるべきだと思います。

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