解雇法制緩和の必要性

解雇法制の緩和で日本経済のダイナミックな復活を!

 故安倍首相のアベノミクスは2013年「アベノミクスの三本の矢」として、金融緩和・財政支出拡大・規制緩和を掲げました。金融緩和と財政支出で水漏れを防ぎ、規制緩和で日本経済を失われた20年(当時)からダイナミックに再活性化させる計画であったと思います。金融緩和と財政支出拡大はデフレ・円高・株価対策としては一定の成果を上げましたが、肝心の規制緩和は既得権者などの抵抗勢力により十分な成果とは言えないものでした。

 特に当時「六重苦」と言われたうちの一つ「厳しい労働法制」の緩和は不十分です。日本経済復活の為には、衰退ビジネスから新しく伸びるビジネスへの労働力の移動が必須です。その人材の流動化を円滑に行うために不可欠な解雇規制の緩和は、抵抗勢力を恐れて手付かずのままであり、結果として労働法制の緩和は病根に手を付けない対症療法にとどまっています。

 日本の解雇法制は、判例により解雇の合理性や解雇回避努力などが非常に厳格に求められています。もともと労働法は資本家(企業側)が強く労働者が弱いという前提に基づいていますが、この前提は近年の少子高齢化で大きく変わってきています。また本来、雇用契約は企業と個人がフィフティ・フィフティの立場であるはずですが、社員はいつでも退職できるが企業は解雇するハードルが非常に高いというアンバランスなものになっています。その結果、企業は正社員を雇用するのに慎重になります。それは不景気時でも会社全体の人件費コントロールが困難になることと、期待する水準に達していない社員でも容易に解雇できないことが原因です。

 バブル崩壊後1990年代のはじめから、政府は解雇法制に手を付けないまま派遣法緩和などにみられるように非正規雇用の拡大に舵を切りました。企業は、不景気な中で株主から選択と集中やグローバル分業など生産性・資本効率を強く求められることになり、人件費を柔軟にコントロール可能な非正規社員を一気に増加させました。労働者における非正規雇用の割合は、1984年15.3%から2004年31.4%まで一気に拡大し、その後は2021年36.7%まで30%台で推移しています。結果的に企業にとっては安価な労働力の確保だと問題になっている非正規社員の拡大は、解雇法制の硬直化が大きな原因になっていると考えます。

 ジョブ型雇用についても、この解雇法制のままでは本格的な拡大は見込めないでしょう。ジョブ型雇用は業務を限定して雇用する制度です。そのビジネスが衰退し労働力が余剰になってしまう場合や、その業務で期待通りのパフォーマンスを上げられない人も、現在はハードルが高く解雇が難しい状況です。メンバーシップ型雇用の場合は、他のビジネスや適性がありそうな業務に異動させることが可能ですが、ジョブ型では会社に異動権がありません。このように会社が人材の不良在庫をかかえるリスクを負うことになりますし、人材活用の観点からも好ましくありません。ジョブ型や業務領域限定型の雇用制度を拡大させるのであれば、解雇可能なガイドラインを明確に示すなど、解雇法制を緩和することが求められます。

 もちろんやみくもに解雇法制を緩和して、労働者が簡単に首を切られて露頭に迷うようでは困ります。ガイドラインを明確にするとともに、企業にはどういう理由でどれだけの人数を解雇しているかを開示させるべきでしょう。人口減少で労働力がますます枯渇していく環境ですから、不合理な解雇をしている会社には誰も入社せず必要な労働力が確保できなくなるはずです。また期待されるパフォーマンスを発揮できない場合でも、業務改善プログラムなどで期待水準を明示して改善する機会を提供し、それでも期待水準に達しない場合とするなどの解雇に必要なプロセスも義務付けるべきです。そのうえで労働力が移動する過程でのセーフティネットやリスキリングの機会を整備するのも国の役割でしょう。これらとセットで解雇法制を緩和することが、日本経済がダイナミックに回復するために不可欠だと思います。解雇法制の緩和は、安価な労働力を得ている産業界をはじめ抵抗勢力も相当大きく難しいと思いますが、日本経済が失われた30年から脱却して力強く再拡大するために、勇気を持った政治家が推進してくれることを期待します。

 

人事部長F について

大手金融機関で人事業務を8年、うち人事部長を4年間務めきました。 人事部長として考えてきた人事戦略・人事運営に関する考えを このブログで発信していきます。
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