フェアネスの原則#2;社員と会社のために大切なもの

 

 例えば、メンバーシップ型人事制度(いわゆる日本型の総合職中心の人事制度)を採用している会社の、賞与ファンド配分について考えてみましょう。この会社にはA、B、C三つのビジネス本部があり、年に一度の賞与は全社業績である経常利益に一定比率を掛けた金額を全社ファンドとし、各本部の業績に応じて全社ファンドを配分するものとします。

 ある年、A本部で新本部長を外部から採用しました。その年はA本部が好調で前年比150%の業績を上げました。しかしBC本部が不振で、会社全体の経常利益は前年比減少となってしまい、結果としてA本部に配分される賞与ファンドは前年並みになってしまいました。新A本部長は人事部に対し、前年比150%の業績なのだから賞与ファンドをもっと寄越せと強く主張しています。さて、どうしましょう。「そうは言っても」新A本部長はうるさいし、実際着任早々頑張って実績を上げたし、ここで部下には良い顔をしたいでしょう。社長にかけあって追加の賞与ファンドをもらってくるべきでしょうか?

 まずメンバーシップ型人事制度の場合、社員はA本部、B本部、C本部のどこにでも会社命令で異動する可能性があります。つまりA本部に在籍する社員は、たまたまその年にA本部に所属していただけだということが言えます。また過去には、A本部の業績が振るわなかった年にB本部やC本部が頑張ったおかげで、A本部の社員も相応に賞与をもらったケースもあったはずです。このように会社が好調な時に所属本部が不調でも相応の賞与がもらえる場合もあれば、会社が不調な時には所属本部が好調でもワリを食う場合もあります。結果的にラッキー・アンラッキーは長い期間で均されていくというのがフェアな考え方だと思います。

 追加ファンドを社長と人事だけのブラックボックスで決めたとしても、他本部の社員へも口の端から漏れていくものだと考えるべきです。これを知れば過去A本部にいて異動でBC本部にいる社員は、不公平だと思うでしょう。また新A本部長に忖度してその年だけA本部に追加ファンドを払ってしまえば、会社は不振だがB本部やC本部は好調な場合でも、BC本部は追加ファンドをくれと言うでしょう。毎年それぞれの本部事情を主張しはじめて、賞与ファンド配分の規律は崩れていくことになります。主張しない場合でも、人事部への不信感が残って社員エンゲージメントは下がるでしょう。

 このように現場に配慮した柔軟な対応と言いつつ原理原則をおろそかにすると、会社全体の規律が乱れてコストアップしたり、社員のエンゲージメントが低下して会社全体が不幸になるのです。この例の場合はその場しのぎの対応をせず、原理原則に従って新A本部長に過去の経緯と公平性の原則を丁寧に説明し、納得してもらうことが必要です。この公平性が理解できないようでは、会社の経営陣として失格と言わざるを得ません。

 橋下徹氏は著書「最強の思考法」で、フェアな考え方とは「自分が求めるものは相手にも認める」ことであり、「自分にとって不利な結論や状況になっても、フェアのためには受け入れなくてはならない」と述べています。自分の言葉がブーメランのように自分に返ってきても大丈夫なように、常にフェアネスを大切にするべきという考え方です。これは社内外に判断基準を堂々と説明できるようにしておくことと、基本的には同義だと思います。本ブログに書いているリーダー選抜の人事評価も、女性活躍におけるクオータ制への意見も、底流にはこの「フェアネスの原則」が流れています。「フェアネスの原則」は人事運営において最も大切であり厳格に守るべきプリンシプルです。その時点では苦しく厳しい判断でも歯を食いしばって守らなくてはいけないものであり、長い期間で考えれば社員にとっても会社にとってもベストな結果を生むものと信じています。

人事部長F について

大手金融機関で人事業務を8年、うち人事部長を4年間務めきました。 人事部長として考えてきた人事戦略・人事運営に関する考えを このブログで発信していきます。
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