自己を磨くとは、心・技・体を磨くこと
リーダーを育成・選抜する人事評価シリーズでは、資質(人間性・人格・人徳)が重要であり若いうちから意識して磨くべきだと述べました。このシリーズでは、人間性も含めた自己研鑽・自己を磨くということについて考えてみたいと思います。
ここで言う自己研鑽というのは自己の”総合力”を磨くということであり、自分の発揮できるパフォーマンスの質と量を大きくしていくということです。アスリートに例えると分かり易いと思います。卓越した成績を上げるトップアスリートは心・技・体が充実していると言われますが、自己を磨くとはまさに心・技・体を磨くことにほかなりません。そのためには訓練・トレーニングが欠かせないということになります。
ではビジネスパーソンにとっての心・技・体とは何でしょうか?”心”は情熱、人間性、人格、”技”は知識や技術、ノウハウ、”体”は健康、体力のことだと考えれば良いでしょう。ビジネスパーソンとして成長していくためには、長距離走者としての持久力と短距離走者としての瞬発力のどちらも必要です。自己を磨く努力を続けていく持久力とともに、ここぞという時には最大出力でパフォーマンスを発揮する瞬発力も同時に磨いていく必要があります。
そのためには心・技・体をバランスよく成長させていく必要があります。人間性が素晴らしくても知識や技能がなければビジネスパーソンとしてパフォーマンスは出せません。知識や技能があっても健康で体力がなければ努力は続けられないし、いざという時に頑張りが利きません。また技術・体力が十分にあっても人間性に欠陥があれば、せっかくの技術・体力が間違った方向に使われてしまいます。
わたしは人事部長を四年間務めましたが、かなりの激務で毎日重さも大きさもたっぷりある案件が怒涛のごとく押し寄せてきました。それらをできるだけ正しく判断・決断していくためには、思考力や直観力はもちろん必要ですが、しっかり寝て健康でいなければ健全な判断を続けるための思考意欲や思考体力が維持できません。また自分の感情をできるだけ波立たせないようにして物事をありのままに見ることも、正しい判断のためには非常に重要でした。心・技・体のコンディションとバランスを常に良い状態に保っておくことは、仕事のパフォーマンスに直結する必須の自己マネジメントです。
ちょっと話は横道にそれますが、わたしは「自己を磨く」ことを人生の目標にすることは、メンタルタフネスを獲得するために非常に有効だと考えています。メンタルタフネスとは逆境や失敗にめげずに立ち向かう精神力のことだと思います。逆境や失敗に対して「なぜこんなことになってしまったのか」といった後悔や「あいつがあんなことをしなければ。自分はなんてツイてないんだ」といった他責の念に絡め捕られてしまうと、いつまでたってもネガティブな感情から抜け出せずメンタルにも悪影響を及ぼします。また「こんな事じゃだめだ、もっと頑張らなければ」と思いすぎることも、糸を張りすぎて切れてしまうリスクがあります。
一方人生の目的を「自己を磨いて、死ぬまで自分を成長させよう」と考えている人にとっては、逆境は自分を鍛えてくれるまたとない機会だし、失敗でさえも反省して成長する機会としてポジティブに捉えることができます。もちろん感情としては一時的に落ち込んでも、成長のための機会だと考えることで自然に前を向くことができます。わたしの経験でも、逆境に正面から立ち向かった期間は、後から見ると間違いなく成長できていたと実感しています。年を取って体力的には若い人に後れを取っても、人間性や知識・技能を磨くことで総合力で負けない付加価値を発揮できれば良いのです。「自己を磨く」ことを目的にすることは、人生を前向きに生きるコツとして、老若男女全ての人にオススメしたいと思います。