人事制度#2 日本型メンバーシップ型の効用①

空きポストを埋める仕組み、OJTによる人材育成

 違和感その2は、日本型メンバーシップ型の良さが理解されていないことです。日本型メンバーシップ型雇用の長所については、海老原嗣生氏の著書「人事の成り立ち」「人事の組み立て」「人事の企て」の人事シリーズで見事に整理していただいておりますので、以下参考にしています。(このシリーズは雇用制度の理論と実践を繋げて分かり易く整理されており、大変参考になりました)

 日本型メンバーシップ型雇用とは、新卒一括・業務無限定で採用し、現場OJTで少しずつ難しい仕事を与えながら社員を成長させていくシステムです。成長するとともに誰でも階段が登れるシステムで職能資格が上り、それに伴い報酬も徐々に上がっていきます。人事部は業務領域をまたいだ異動を発令し、異動に本人同意は必要ありません。前述のように中途解雇は非常に難しい一方、定年制により一定の年齢になると一括で雇用契約が一度解消されます。

 メンバーシップ型の長所としては、例えばポストがあいた場合、縦横斜め(部下、横のポストの社員、当該業務経験者など)の異動で即座に埋め、その空きをさらに縦横斜めの異動で埋めることをくり返すことで、最後には新卒一人を採用すれば補充できる点です。これは様々な業務を経験して汎用的能力(基礎能力・リーダーシップ・マネジメント力)を高めている社員と、社員の特徴を把握している人事部がおり、人事部が異動権限を持っていることで初めて成り立つ画期的な仕組みであり、ジョブ型制度ではこのような真似はできません。

 人材育成については、メンバーシップ型は上司が部下の成長に応じて少しずつ難しい仕事を与えていく仕組みであり、日々の仕事がそのまま育成につながるOJTが主体となっています。日本企業では、上司はもちろん先輩も後輩を指導することがあたりまえだという文化があります。ジョブ型制度の下では、後輩を育てると自分のポストが奪われてしまうというディレンマがあり、そのような文化は育ちにくいでしょう。最近日本企業は他国の企業に比べて教育研修費が少ないといった内容の記事を目にしますが、教育研修費という名目のコストになっていないだけで、現場の上司や先輩の教育・指導という形でコスト(労力)は十分にかけていると言えるのではないでしょうか。

 ちなみに、日本企業は終身雇用制度のせいで雇用が固定化されているとの論調も多いですが、日本だけが世界の中で突出して長期固定化しているということではないようです。「データブック国際労働比較2022(厚生労働省管轄の独立行政法人作成)」によると、2020年の国別勤続年数は日本11.9年に対して、米国4.1年、英国8.1年と米英に比べると確かに長いですが、ドイツ10.8年、フランス11.0年、イタリア12.4年などはほぼ日本並みとなっています。このデータを見限り、むしろ米国が突出して短いというべきでしょう。

人事部長F について

大手金融機関で人事業務を8年、うち人事部長を4年間務めきました。 人事部長として考えてきた人事戦略・人事運営に関する考えを このブログで発信していきます。
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