人事評価#11 評価・登用の実際

社員エンゲージメントを高める人格中心リーダー選抜

 ではリーダー選抜・育成のための人事評価シリーズの最後に、実際の評価運営に関してのポイントをいくつか述べたいと思います。

 まず総合能力評価各項目の評価結果をどのように表示していくか、という点です。基礎能力およびリーダーシップ・マネジメント力の汎用的能力については、役員・部長・課長などのポストレベルと担当者3(一人前)、担当者2(半人前)、担当者1(新入社員)などのレベル設定をすることで評価し易くなると思います。実際には役員といえども全ての評価項目で最高レベルの能力を備えていることはまれですが、会社で使っている職能資格やポスト呼称などの定義に合わせた評価レベル設定が、評価の実感を高めると思います。例えば課長を目指す担当者3の社員に対して、「知る、表明する、実行するは課長レベルで、特に自分の意見を積極的に表明する姿勢は長所。一方○○プロジェクトの企画書などを見ると、真因を探って解決策を見出す部分、つまり理解する、意見を持つは、課長に向けてもう一段の研鑽が必要」などと評価し、具体的な事例と共にフィードバックすることで、その社員の課題を明確に浮き彫りにできます。

 専門性については、全業務領域で専門性を示す共通タイトル(例:MDマネジメントダイレクター・Dダイレクター・VPバイスプレジデント・ASアソシエイト・ANアナリストなど)を決めておき、各タイトルの定義(レベル感や必要能力、資格など)は業務領域ごとに設定します。例えば法務部門のMDは「弁護士資格あるいはそれと同等の知見」など分かり易いものが良いでしょう。

 情熱と資質についてはすでに述べましたが、本人の明らかな長所だと思われる資質はどれか、あるいは明らかに欠けている資質はどれかを、具体的事例と共に挙げてもらうのが良いでしょう。例えば「情熱が長所:○○のプロジェクトで、反対意見があってもあきらめず、粘り強く説得して理解を得て目標を達成できた」などです。

 総合能力評価=能力×情熱×資質ですが、評価が定性的であるため最終評価結果を点数化することは困難です。評価結果を表す一つの方法としては、評価結果としては長所と課題を浮き彫りにしたうえで、上位の職能資格やポストとのギャップで示す方法があります。例えば「S=上位資格・ポストの実力、A=現資格・ポスト並みの実力、B=現資格・ポスト以下の実力」などで、段階はもう少し細かく設定可能だと思います。これもすでに述べましたが、定性的な評価結果の精度を上げるためにも、360度評価は参考として必須です。評価する上司から見えない部分がはっきり見えてくるとともに、主観的な評価を集めることで客観性が備わり、評価の精度が格段に高まります。

 そして人事部は、評価者である上司自身がどのように部下を評価しているか、その正しさや着眼点をよく見ておきましょう。ある部下を周りに比べて高く評価している場合、その後のその部下の活躍などをしっかりチェックしていきます。部下の長所短所を的確に見抜く人物鑑定眼がなければ、将来の経営者としての成功はとてもおぼつかないからです。

 総合能力評価の結果のフィードバックは、社員の成長を促すことが大きな目的です。本人の長所と課題を明確に示すことで、これから磨いていくべき部分を本人と上司が共有します。360度評価は本人へのフィードバックの納得性を高めるためにも有効です。例えば「360度評価では、複数の関係者が君はチームの間に落ちそうな球を取りにいかないと感じているようだ。自分のアサインメントだけでなく、自分がチームのためになすべきことを能動的に行うことがチームワークの本質であり、リーダーとして成長していくために必要ですよ」といったフィードバックは、上司の主観だけのフィードバックに比べて納得性が高まります。

 評価シートの構成、評価項目についての啓もうや浸透、360度評価導入時の注意点など、総合能力評価をワークさせるためには様々なポイントがあります。また、会社の組織体系や状況によっても変わってきます。総合能力評価は、会社の人事制度などに合わせて全体の仕組みを構築していく必要があるでしょう。

 最後に社員エンゲージメントと人事運営の関係について一言。会社が持続的に成長できるかどうかは、ひとえに社員エンゲージメントが高いかどうかによります。社員エンゲージメントを上げるためには、会社の理念、処遇条件、上司や周りとの関係など様々な要因が絡みます。しかし何よりも評価制度の公平さ、公正さや、経営者や役員などに登用されていく人の人選に対しての納得感が重要です。その他のことにどれだけ力を入れても、評価や登用に納得感がなければ社員のエンゲージメントは上がらず、企業カルチャーも健全なものにはなりません。偉くなる人に対して、社員が「あの人が偉くなるのは当然だよね」と納得できずに「なぜあんな人が偉くなるの?」という登用をしていると、理念やメッセージが立派であればあるほどむしろ社員はしらけてしまいます。経営者や人事部門が最も重要視すべきことです。

 人格中心リーダー選抜の徹底は、健全な企業カルチャーを作り社員のエンゲージメントを高めるために最も重要であり、必須の仕組みです。企業で働く社員の皆さんが、徳を持った経営者に率いられた魅力的な会社で生き生きと働き、世界で活躍することを願っています。

人事部長F について

大手金融機関で人事業務を8年、うち人事部長を4年間務めきました。 人事部長として考えてきた人事戦略・人事運営に関する考えを このブログで発信していきます。
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