人事評価#10 総合能力評価の項目⑤ (資質:人間性・人徳・人格)

経営者の資質は、企業カルチャー、社員エンゲージメントに直結する

 いよいよ資質(人間性・人徳・人格)です。総合能力評価の中の資質としては、会社の目標に向かって一緒に仕事をするうえで望ましい資質を持っているかどうかが評価のポイントになります。

 資質(人間性・人徳・人格)の重要性はすでに述べている通りです。経営者の人間性に問題があると企業カルチャーが徐々に蝕まれ、社員のエンゲージメントが下がり、結果として業績の低下や不祥事に繋がってしまいます。企業カルチャーや社員エンゲージメントというのは、人間の身体で言えば自律神経や血液の流れなどの体質に当たり、健康な身体のベースです。良い体質を作るためには日々の習慣が重要であり、西洋的な対症療法では改善できません。役職が上って部下が増えれば増えるほど、資質の重要性は高まります。しかし役職に就く頃になって「さあ、人格が重要ですよ」と言われても、短期間で醸成できるものではありません。若手のうちから人格・人徳を意識して日々磨いてもらう必要があります。

【資質の評価項目とポイント】

  • 誠実さ; 嘘をつかない、言ったことはやる ⇒ 社会人として最も大切な信頼・信用のベース
  • 共感性; 人の気持ちに寄り添える、他人の苦しみ・悲しみ・喜びをわが事として共感できる ⇒ 傾聴からの共感は良いコミュニケーションの基本、共感の本質は知的にも感情的にも相手を深く理解すること
  • 勇気 ; 挑戦する、プレッシャーに負けずに表明し実行する ⇒ 何かを新しく創ったり変革したりするためには絶対に必要、勇気をもって実行できない人は成功できないリーダーとして重要な決断をする場合などにも極めて重要な資質
  • 率直さ; 裏表がない、忖度せずにものを言う ⇒ 誠実さともつながるものであり、率直な態度や議論は風通しの良い健全な企業カルチャーの基本
  • 度量 ; 多様なものを受け入れる、ふところが深い ⇒ 多様性をパワーに変えるために必要な資質、経営者などのリーダーには必須
  • 謙虚さ(素直さ); 批判や注意など耳の痛いことを受け入れ、糧とすることができる ⇒ 謙虚でないと個人も会社も成長できない
  • 柔軟性; 様々な状況に対応できる、良い意見だと思えば自分の意見を修正する ⇒ 謙虚さにも通じる資質、安定した感情と自分を信じる気持ちが必要
  • 公平・公正 ; ルールを守るうえで相手の地位などにかかわらず公平に扱う、常に公明正大に物事を考え実行している ⇒ リーダーに公平・公正性が無いと組織の基盤が腐る
  • 品格 ; 信念をもって自分を律している、恥や卑しさを正しく意識している、厳しい局面では自分が矢面に立つ、失敗は自分の責任・成果は部下の手柄とする ⇒ やたら頑固ということではなく柔軟性とも共存すべきの、部下がついていきたいと思うリーダーの資質
  • 利他 ; 自分第一ではなく、他人や社会を第一に考える ⇒ Win-Loseではなく常にWin-Winを基本に考えているか

 わたしは、人徳のある人とは一言で言えば「自分の欲や怒りに振り回されず、利他の心をもって生きている人」だと思っています。上記の評価項目は人徳のある人が持っている資質です。

 資質を評価するうえで注意したいのが、評価すべき資質と特徴を混同しないことです。特徴とは、多弁か寡黙か、楽観的か悲観的か、アグレッシブか慎重派か、などが挙げられます。これらはどちらが良い悪いというものではなく、例えばチームアップの時に組み合わせの参考にしたり、状況によっては使い分けも必要なものであり、評価には馴染みません。

 資質を評価するときは、本人の明らかな長所と言える資質はどれか、あるいは明らかに欠けている資質はどれかを、具体的事例とともに挙げてもらうのが良いでしょう。その際には360度評価により、客観性を持たせることがとても重要です。360度評価は本人へのフィードバックの納得性を上げ、本人の気づきをもたらし行動変革に繋げるためにも非常に有効です。

 京セラ創業者の稲盛和夫氏は著書「生き方」で以下のように述べています。(※一部編集しています。    「人生の方程式とは「人生・仕事の結果=考え方 × 熱意 × 能力」であり、この式の中で最も重要なのは「考え方」というファクターです。 ・・・ ここでいう「考え方」とは生きる姿勢、つまり哲学や思想、倫理観などのことであり、それらすべてを包含した「人格」のことでもあります。この方程式はかけ算であり、「考え方」が重要なのはこれにはマイナスポイントがあることです。 ・・・ 人生・経営の原理原則には「人間として何が正しいのか」という極めてシンプルなポイントに判断基準を置こうと考えたのです。嘘をつくな、正直であれ、人に迷惑をかけるな、人に親切にせよ ・・・ 人間として正しいか正しくないか、良いことか悪いことか、やっていいことかいけないことか、そういう人間を律する道徳や倫理をそのまま経営の指針や判断基準にしました。」「利を求める心は事業や人間活動の原動力になるものです。しかしその欲を利己の範囲のみにとどまらせてはいけません。会社を経営するという行為を取ってみても、すでにそれだけでおのずと世のため人のためになる「利他行」を含んでいるものです。(自身が電気通信事業に乗り出すに当たっては)「動機善なりや、私心なかりしか」ということを何度も何度も自分の胸に問うて、その動機の真偽を自分に問い続けたのです。」

 スターバックス・ジャパン元CEO岩田松雄氏の著書「ついていきたいと思われるリーダーになる51の考え方」という本はとても示唆に富んでおり、自分が部長職を務めるうえでの座右の書でした。岩田氏はその中でリーダーについて以下のように述べています。(※一部編集しています)   「部下の中で最も厄介なのは、仕事はできるが性格が良くない部下です。協調性もなく、リーダーの言うことも聞いてくれない。平気でチームの輪を乱してしまったりする。こういう部下を評価したり抜擢したりしてもいいのか、私の答えはノーです。組織ではポジションが上に行けば行くほど、求められる能力は「スキル系」の能力よりも「人格系(徳)」の能力が大きくなっていくと私は思っています。本当に優れたリーダーになるのに欠かせない能力は「人間力」です。では部下が付いていきたいと感じる人間力とはどのようなものか。それは「無私の心を持つ」ということです。私心を捨てる、自分のことを一切考えないと言い換えても良いかもしれません。・・・リーダーが人間性を示せるのは、結局のところ日々の行動だと思います。」

 お二人が「無私のこころ」について共通して述べています。松下幸之助氏の著作などをみても、自分を一番に考えず利他のこころを持つということは、トップリーダーにとってとても大切なことだと思います。

人事部長F について

大手金融機関で人事業務を8年、うち人事部長を4年間務めきました。 人事部長として考えてきた人事戦略・人事運営に関する考えを このブログで発信していきます。
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