人事部の役割#5 社員を信じて向き合う姿勢

 世界中の「働きたい会社ランキング」で常に上位にランクされるGoogleを社員エンゲージメントの高い会社にしたラズロ・ボック氏(元人事担当上級副社長)は、著書「Work Rules」でその秘訣を以下のように語っています。

◇ 必要なのは「社員は基本的に善良なものだ」とする信念

◇ グーグルの企業文化の特徴は「ミッション・透明性・発言権(風通し)」である

◇ 社員を信じて自由が主導する組織は、全ての社員から最高の洞察と情熱を活用できるため、弾力性に富み、成功を持続できる

◇ 社員ときちんと向き合うことは目的を達成する手段であり、目的そのものでもある

 人事部と言う部署は評価や昇格、人事異動など社員にとって大切な部分に一定の権限を行使します。そのため責任も重いと自覚する必要があります。そのうえで社員がエンゲージメント高く働く魅力的な会社を作るために、「社員を信じてきちんと向き合う」ことが人事部員に求められる基本姿勢だと思います。人事部員の仕事は経営の重要な側面を担う仕事だという誇りを持って、魅力的な会社を作っていきましょう。

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人事部の役割#4 社員のエンゲージメント向上

 社員エンゲージメントの向上は、人事部の最重要ミッションです。優秀な社員がたくさんいて、それぞれを適材適所に配置できても、個々の社員が高いエンゲージメントで仕事に向き合ってくれなければ成果は上がりません。

 最近はエンゲージメント・サーベイで社員のエンゲージメント・レベルを定量的に観測できる手法が一般的になってきました。ぜひ導入して、エンゲージメント向上施策が功を奏しているかを定点観測し、レベル向上を目指して手を打っていくべきです。

 社員がエンゲージメント高く働くためには、①企業文化が好きである ②仕事にやりがいがある ③職場の風通しが良い ④評価・処遇・昇格運営に納得感がある ⑤柔軟な働き方が可能である ⑥職場規律が守られている の六点が重要です。

 各要素が複雑に絡まっていますが、それらが基調低音のように社員全体のエンゲージメントに効いてきます。エンゲージメント向上のためには、西洋医学のような対症療法ではなく、東洋医学的な体質改善が必要になると考えるべきでしょう。①から⑥それぞれに対して施策を丁寧に打ちながら、エンゲージメントサーベイでどこが課題なのかを探っていくPDCAが必要です。では①から⑥まで、それぞれ説明していきましょう。

①企業文化が好きである; 企業理念や企業文化に共感できるかどうかは、社員のエンゲージメントに大きく影響します。経営者は自社のパーパスやビジョンなどの企業理念を社員に提示し、タウンホールミーティングなどで丁寧に説明することはもちろんですが、それだけでは企業文化にはなりません。個々の局面での判断や指示が、自社の企業理念に沿ったものになっており、それが積み重なることで社員に浸透し企業文化が醸成されていきます。社員が企業文化を好きになっていれば、エンゲージメントが高まることは間違いないでしょう。逆に理念は立派だが実践されていないような状況であれば、理念が立派であればあるほど社員はしらけてしまい、エンゲージメントは上がりません。「生産性向上」というメッセージを出していながら、実際の仕事の場面では前例踏襲や上司への忖度など、役所的文化はびこっているようでは、対症療法的なエンゲージメント向上施策を打っても焼け石に水となります。

②仕事にやりがいがある; 仕事自体にやりがいを感じられるかどうかは、その仕事の面白さとともに、成長できるという実感や会社や社会に貢献できているという意識が重要になります。これは丁寧なアサインメント指示やOJTによる指導など、現場の直属上司の影響が大きいため、人事部としては上司層へのマネジメント教育が重要になります。

③職場の風通しが良い; 職場の上司や同僚、関係者との人間関係の問題です。風通しの良さ、心理的安全性は、社員が自分の意見を述べ、新しいことや難しい仕事にチャレンジするために必要不可欠なものです。風通しの良い職場を実現するためには、まず上司が共感性を持って部下の話をよく聞いたうえで、理由を説明しながら具体的に指示することが重要です。上司の態度が一貫していることで、部下は安心感を持って思い切って仕事ができます。人事部としては②と同様に上司層への指導が重要です。また人事部内の風通しが悪い会社が風通しが良くなるはずはありません。

④評価・処遇・昇格運営に納得感がある; 納得感を支えるものは公平性です。社員は評価・処遇・昇格のために頑張っているのであり、これらの納得感はエンゲージメントに直結します。人事部は、360度評価の導入や丁寧な評価フィードバックなどにより、評価の納得感・公平性を高めていく努力が必須です。適正な処遇のためには、メンバーシップ型制度に加え、専門性の高いプロを処遇できるジョブ型制度の導入なども検討すべきでしょう。また評価や処遇はもちろんですが、役員や部長などへの昇格人事は、会社の姿勢を示すメッセージ性が大きいものです。シンプルに実力主義で昇格が決まっているのか、忖度がうまいヒラメ君が出世するのかなど、社員はよく見ています。「あの人が偉くなるのか!」という感想がポジティブなものかネガティブなものかによって、社員が「自分も頑張ろう」と思えるかどうかは大きく変わってくるでしょう。人事部の最も大切な仕事です。

⑤柔軟な働き方が可能である; 社員エンゲージメントを高めるうえで、社員がワーク・ライフ・バランスを実現するために柔軟な働き方ができる制度や環境を整えることは欠かせません。福利厚生制度はもちろん、リモートワークや休暇・休職制度、健康経営の推進、兼業副業制度などの整備も必要でしょう。多様な社員に活躍してもらう上で重要な切り口です。

⑥職場規律が守られている; 社員が安心して仕事にまい進するためには、職場のルールやマナーが守られていることが必要になります。就業規則の理解やハラスメント防止などを、マネジメント層はもちろん社員全体に浸透させることが重要です。ホットラインなどでハラスメントをはじめとした不適切な行為を洗い出し、問題があれば懲戒処分やポストオフが公平感を持って確実に実施されることが、高い社員エンゲージメントを支える重要な基礎となります。

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人事部の役割#3 適材適所の配置

 適材適所の配置は組合せの問題です。社員の能力と業務の組み合わせと、メンバー同士の特性の組み合わせがあります。社員の特性(長所と短所)を把握して活躍できる業務に従事してもらうことは能力と業務の組み合わせです。

 同時にチームとして成果を上げるために、メンバーの特性の組み合わせもあります。突破力のあるメンバーと分析力のあるメンバーを組み合わせる事などにより、個々の能力がかけ算でチームの成果に結びつくメンバー構成が求められます。

 女性活躍をはじめとする多様性は、この組み合わせのひとつの切り口となります。チームとして期待される成果を上げるために、多様な社員特性を組み合わせることが大切です。特に創造性やイノベーションを期待されるチームでは多様性の高いメンバー構成になるよう組み合わせることが重要でしょう。

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人事部の役割#2 優秀な社員の確保

 優秀な社員を質・量ともに十分確保することは、人材戦略の重要な部分を占めます。優秀な社員は、採用するか、育成するか、あるいはその組み合わせによって確保することになります。

 採用については、新卒採用とキャリア採用に分かれます。

 新卒採用や第二新卒採用は、ポテンシャルの高そうな社員を採用して、優秀な社員に育成していくことを主眼にしていますので、総合能力評価(※)でいうと「基礎能力」と「リーダーシップ・マネジメント力」を重視して採用します。またチームメンバーとして一緒に働くうえで「人間性・人格」も重要な要素となります。中途のキャリア採用では、即戦力としての活躍が期待されますので、業務の「専門性」も重要視されます。

 ポテンシャルは人事部で見極めることが可能ですが、専門性はその業務領域のプロである社員に見極めてもらう必要があるでしょう。

(※総合能力評価の項目については「リーダー育成のための人事評価」シリーズをご参照ください)

 育成は、研修や自己啓発などの知識習得と、キャリアなどの経験に分かれます。社員に身に着けて欲しい知識や考え方などについては、社員研修や自己啓発のためのセミナーや通信教育などのプログラムの提供、必要な資格の義務化や推奨などを充実させていきます。

 同時に本人の希望と特性も考慮しながら、社内移動や出向などでさまざまなキャリアを積ませることにより、経験値を高めて知識を実際に使える能力として身に着けてもらうことが重要です。ゴルフで言えば、打ち方の基本知識を習って、実際に多くのボールを打つことで身に着けるイメージです。

 将来の経営者を育成していくためにも、どのような知識を身に着けてどのような経験を積んで成長してもらうかは、本人と会社が認識を共有しながら進めていくことが大切になります。 

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人事部の役割#1 人材戦略とは?

 営利企業の経営は、正しいビジネスで社会に貢献する企業として、企業価値を上げていくことが最大の目標になります。

 企業価値を向上させるためには、適切なビジネス戦略と人材戦略が両輪となります。つまりどんなビジネスを誰とやるか、によって企業価値が上がるかどうかが決まります。そのうち人事部は”誰がやるか”と言う人材戦略の部分を担うことになります。

 企業価値を向上させる人材戦略の基本は、「優秀な社員」を「適材適所に配置」して「エンゲージメント高く」働いてもらうことです。この三つの要素をそれぞれレベルアップすることが企業価値を高めることになります。言い方を変えると、人事部の役割とはこの三つの要素をそれぞれ充実させることだと言えます。

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日本企業の人材開発コストは低くない!

メンバーシップ型ではOJTで先輩が後輩を一人前になるよう指導してくれる

 最近の新聞やコラムなどを読むと、日本企業は欧米企業に比べ社員の人材育成にコストをかけていないという論調を良く見かけます。根拠として日本のGDPに占める企業の能力開発費の割合が欧米に比べて低いことを上げていますが、これは極めて浅薄な議論です。

 これは厚生労働省の2018年版「労働経済の分析」における能力開発費のGDP比率で、米国2.0%、フランス1.7%、ドイツ1.3%に対して日本はわずか0.1%というデータが元になっていると思われます。ここで注意が必要なのは、この能力開発費にはOJTつまり現場での指導育成コストは含まれていない点です。

 日本型と言われるメンバーシップ型雇用制度では、新卒学生などを採用しOJTで先輩社員が細かく丁寧に指導して一人前に育てていきます。日本企業に勤めていると、部下や後輩の指導育成は社員全員に期待されている役割であることが一般的です。これはジョブ型雇用制度では仕組みとして不可能です。なぜならジョブ型の場合、後輩を指導して自分のジョブができるように成長させてしまうと、自分のジョブが奪われる危険性があるからです。一方メンバーシップ型の場合は、早く後輩を指導して自分のジョブを後輩に任せれば、自分はより難易度が高い(処遇も高い)仕事にチャレンジできることになります。メンバーシップ型雇用制度という仕組みの長所のひとつです。

ではOJTを含めると日本企業の能力開発費は欧米と比べてどうなのでしょうか? まず日本企業がどれくらい人件費を払っているかを見てみましょう。日本の労働分配率(雇用者報酬/GNI 国民総所得)は2019年で50.4%(※1)です。2019年度の日本のGNIは5.27兆ドルですので、雇用者報酬つまり人件費は 5.27兆ドル×50.1%=2.64兆ドル となります。前述のとおりメンバーシップ型雇用制度の日本企業では、部下や後輩の指導育成が一般的に期待されます。部下・後輩の指導育成が仕事の内どのくらいの割合かはケースバイケースですが、わたしの実感値から仕事全体の5%と仮定します。部下や後輩の指導を期待されている社員が全雇用者の半分50%だと仮定すると (雇用者報酬2.64兆ドル)×(指導育成が期待される社員比率50%)×(指導育成にかける仕事の割合5%)=(指導育成にかかるコスト0.066兆ドル)となります。これは日本の2019年GDP5.12兆ドルの約1.3%に当たります。

 前述の日本の能力開発費(OJT除き)のGDP比率0.1%にOJT分1.3%を加えると1.4%つまりドイツより上となります。日本企業の能力開発費は欧米と比べても決して少なくないと言えます。欧米企業のOJTを足さないとフェアじゃないという声がありそうですが、そもそもジョブ型雇用では後輩の指導育成をする動機付けができないので、別建ての研修などのOFF-JTで人材を育成しようとするわけです。

 このように、労働関連のデータはそれぞれの国の雇用制度や慣習などを無視して数字だけで解釈しようとするとミスリードしてしまいます。企業の労働現場の実態を分かっていない学者や役人、新聞などはえてしてこのような分析をしがちです。何でもかんでも欧米礼賛ではなく、実態や背景などを含めて総合的に調べて記事にしてもらいたいものです。

※1 内閣官房「賃金・人的資本に関するデータ集」より

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解雇法制緩和の必要性

解雇法制の緩和で日本経済のダイナミックな復活を!

 故安倍首相のアベノミクスは2013年「アベノミクスの三本の矢」として、金融緩和・財政支出拡大・規制緩和を掲げました。金融緩和と財政支出で水漏れを防ぎ、規制緩和で日本経済を失われた20年(当時)からダイナミックに再活性化させる計画であったと思います。金融緩和と財政支出拡大はデフレ・円高・株価対策としては一定の成果を上げましたが、肝心の規制緩和は既得権者などの抵抗勢力により十分な成果とは言えないものでした。

 特に当時「六重苦」と言われたうちの一つ「厳しい労働法制」の緩和は不十分です。日本経済復活の為には、衰退ビジネスから新しく伸びるビジネスへの労働力の移動が必須です。その人材の流動化を円滑に行うために不可欠な解雇規制の緩和は、抵抗勢力を恐れて手付かずのままであり、結果として労働法制の緩和は病根に手を付けない対症療法にとどまっています。

 日本の解雇法制は、判例により解雇の合理性や解雇回避努力などが非常に厳格に求められています。もともと労働法は資本家(企業側)が強く労働者が弱いという前提に基づいていますが、この前提は近年の少子高齢化で大きく変わってきています。また本来、雇用契約は企業と個人がフィフティ・フィフティの立場であるはずですが、社員はいつでも退職できるが企業は解雇するハードルが非常に高いというアンバランスなものになっています。その結果、企業は正社員を雇用するのに慎重になります。それは不景気時でも会社全体の人件費コントロールが困難になることと、期待する水準に達していない社員でも容易に解雇できないことが原因です。

 バブル崩壊後1990年代のはじめから、政府は解雇法制に手を付けないまま派遣法緩和などにみられるように非正規雇用の拡大に舵を切りました。企業は、不景気な中で株主から選択と集中やグローバル分業など生産性・資本効率を強く求められることになり、人件費を柔軟にコントロール可能な非正規社員を一気に増加させました。労働者における非正規雇用の割合は、1984年15.3%から2004年31.4%まで一気に拡大し、その後は2021年36.7%まで30%台で推移しています。結果的に企業にとっては安価な労働力の確保だと問題になっている非正規社員の拡大は、解雇法制の硬直化が大きな原因になっていると考えます。

 ジョブ型雇用についても、この解雇法制のままでは本格的な拡大は見込めないでしょう。ジョブ型雇用は業務を限定して雇用する制度です。そのビジネスが衰退し労働力が余剰になってしまう場合や、その業務で期待通りのパフォーマンスを上げられない人も、現在はハードルが高く解雇が難しい状況です。メンバーシップ型雇用の場合は、他のビジネスや適性がありそうな業務に異動させることが可能ですが、ジョブ型では会社に異動権がありません。このように会社が人材の不良在庫をかかえるリスクを負うことになりますし、人材活用の観点からも好ましくありません。ジョブ型や業務領域限定型の雇用制度を拡大させるのであれば、解雇可能なガイドラインを明確に示すなど、解雇法制を緩和することが求められます。

 もちろんやみくもに解雇法制を緩和して、労働者が簡単に首を切られて露頭に迷うようでは困ります。ガイドラインを明確にするとともに、企業にはどういう理由でどれだけの人数を解雇しているかを開示させるべきでしょう。人口減少で労働力がますます枯渇していく環境ですから、不合理な解雇をしている会社には誰も入社せず必要な労働力が確保できなくなるはずです。また期待されるパフォーマンスを発揮できない場合でも、業務改善プログラムなどで期待水準を明示して改善する機会を提供し、それでも期待水準に達しない場合とするなどの解雇に必要なプロセスも義務付けるべきです。そのうえで労働力が移動する過程でのセーフティネットやリスキリングの機会を整備するのも国の役割でしょう。これらとセットで解雇法制を緩和することが、日本経済がダイナミックに回復するために不可欠だと思います。解雇法制の緩和は、安価な労働力を得ている産業界をはじめ抵抗勢力も相当大きく難しいと思いますが、日本経済が失われた30年から脱却して力強く再拡大するために、勇気を持った政治家が推進してくれることを期待します。

 

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フェアネスの原則#2;社員と会社のために大切なもの

 

 例えば、メンバーシップ型人事制度(いわゆる日本型の総合職中心の人事制度)を採用している会社の、賞与ファンド配分について考えてみましょう。この会社にはA、B、C三つのビジネス本部があり、年に一度の賞与は全社業績である経常利益に一定比率を掛けた金額を全社ファンドとし、各本部の業績に応じて全社ファンドを配分するものとします。

 ある年、A本部で新本部長を外部から採用しました。その年はA本部が好調で前年比150%の業績を上げました。しかしBC本部が不振で、会社全体の経常利益は前年比減少となってしまい、結果としてA本部に配分される賞与ファンドは前年並みになってしまいました。新A本部長は人事部に対し、前年比150%の業績なのだから賞与ファンドをもっと寄越せと強く主張しています。さて、どうしましょう。「そうは言っても」新A本部長はうるさいし、実際着任早々頑張って実績を上げたし、ここで部下には良い顔をしたいでしょう。社長にかけあって追加の賞与ファンドをもらってくるべきでしょうか?

 まずメンバーシップ型人事制度の場合、社員はA本部、B本部、C本部のどこにでも会社命令で異動する可能性があります。つまりA本部に在籍する社員は、たまたまその年にA本部に所属していただけだということが言えます。また過去には、A本部の業績が振るわなかった年にB本部やC本部が頑張ったおかげで、A本部の社員も相応に賞与をもらったケースもあったはずです。このように会社が好調な時に所属本部が不調でも相応の賞与がもらえる場合もあれば、会社が不調な時には所属本部が好調でもワリを食う場合もあります。結果的にラッキー・アンラッキーは長い期間で均されていくというのがフェアな考え方だと思います。

 追加ファンドを社長と人事だけのブラックボックスで決めたとしても、他本部の社員へも口の端から漏れていくものだと考えるべきです。これを知れば過去A本部にいて異動でBC本部にいる社員は、不公平だと思うでしょう。また新A本部長に忖度してその年だけA本部に追加ファンドを払ってしまえば、会社は不振だがB本部やC本部は好調な場合でも、BC本部は追加ファンドをくれと言うでしょう。毎年それぞれの本部事情を主張しはじめて、賞与ファンド配分の規律は崩れていくことになります。主張しない場合でも、人事部への不信感が残って社員エンゲージメントは下がるでしょう。

 このように現場に配慮した柔軟な対応と言いつつ原理原則をおろそかにすると、会社全体の規律が乱れてコストアップしたり、社員のエンゲージメントが低下して会社全体が不幸になるのです。この例の場合はその場しのぎの対応をせず、原理原則に従って新A本部長に過去の経緯と公平性の原則を丁寧に説明し、納得してもらうことが必要です。この公平性が理解できないようでは、会社の経営陣として失格と言わざるを得ません。

 橋下徹氏は著書「最強の思考法」で、フェアな考え方とは「自分が求めるものは相手にも認める」ことであり、「自分にとって不利な結論や状況になっても、フェアのためには受け入れなくてはならない」と述べています。自分の言葉がブーメランのように自分に返ってきても大丈夫なように、常にフェアネスを大切にするべきという考え方です。これは社内外に判断基準を堂々と説明できるようにしておくことと、基本的には同義だと思います。本ブログに書いているリーダー選抜の人事評価も、女性活躍におけるクオータ制への意見も、底流にはこの「フェアネスの原則」が流れています。「フェアネスの原則」は人事運営において最も大切であり厳格に守るべきプリンシプルです。その時点では苦しく厳しい判断でも歯を食いしばって守らなくてはいけないものであり、長い期間で考えれば社員にとっても会社にとってもベストな結果を生むものと信じています。

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フェアネスの原則#1;人事に最も大切なもの

 物事を判断するときに、法律や明文化されたルールがあればそれに従う必要があります。しかし法律やルールに明文化されていないケースは、法律やルールがなぜ制定されたのかという目的やそのルールの原理原則に戻って考える必要があります。特に人事運営においては「フェアネスの原則」つまり公平性・公正性の原則は、ゆるがせにできない最重要な原則だと思っており、判断軸として常に意識してきました。

 わたしは人事部長時代に、上司の役員から「原理主義」と言われ、もっと現場の意向を汲んで柔軟に対応すべきだと注意を受けたことがあります。また別の役員からは「原理主義では誰も幸せにならない」というコメントも聞きました。これらの発言に私自身は違和感を覚えており、実際のケースでは最後まで反発したことを思い出します。本稿では、なぜわたしが反発したのか、なぜ「フェアネスの原則」を大切にすべきなのかについて考察したいと思います。

 「原理主義」という言葉は、キリスト教原理主義やイスラム原理主義など宗教関連で良く使われます。一般的には原理原則を厳格に守ろうとする立場のことを言います。原理原則はルールより抽象度を一段上げた概念を示すものです。

 お断りしておきたいのですが、わたしはいわゆる明文化されたルールを盲目的に厳格運用すべきとは考えていません。ルールが原理原則に合っていない場合はルール自体を変えるべきですし、ルールに明文化されていないケースでは原理原則に則って柔軟に判断する必要があります。しかし人事運営においては「フェアネスの原則」は最優先させるべきとの考え方です。現場の声を聞くことはとても大事ですが、「フェアネスの原則」に反する場合は、むしろ現場に説明し納得してもらうべきだと考えています。

 人事の仕事の中には、社員には開示できないブラックボックスの部分がどうしても存在します。それを良いことに、評価や処遇・昇格などの人事運営に「そうは言っても社長がこう言っているから、そうは言ってもあの役員が可愛がっているから・・・」という忖度が働きがちです。この「そうは言っても・・・」という言葉が出るときは、「フェアネスの原則」の危機だと言っても良い状況です。通常は社内外に開示しないような判断でも、たとえば訴訟などによって社内外に事実関係を明らかにしなければならなくなる場合があります。その時に堂々と公平性・公正性を主張できるよう判断しなくてはなりません。また、たとえ開示されないとしても、社員はその不公平性を敏感に感じ取るものです。それは人事運営に対する不信感につながり、社員エンゲージメントの低下を引き起こし、会社の業績に影響してしまいます。会社の体質が根本から弱くなってしまうのです。

 またこのような企業体質の中では、「そうは言ってもこれくらいは良いだろう」と規律が徐々に崩れていき、気が付くと不正会計や不正検査、リコール隠しなどの企業不祥事が会社に徐々に広がってしまうことにもなります。前述の役員のコメント「原理主義では誰も幸せにならない」とはどういう意味かいまだにわかりませんが、原理原則を大切にしないと社員エンゲージメントが低下し、規律(ディシプリン)が崩壊することで不正が蔓延して会社が不幸になります。「そうは言っても・・・」はその場の人たちが楽になる一方で、将来に向けて大きなリスクを抱え込むことになるのです。

 

 

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女性活躍 クオータ制について #4

公平な女性登用とは?

 では、女性の昇格・登用において公平・公正な運用とはどのようなものでしょうか。わたしは「昇格候補者の女性比率と、実際に昇格した女性比率を同水準にする」ことが重要だと考えます。

例えば課長資格昇格候補者100人のうち30%の30人が女性だとしたら、昇格した10人のうち女性が30%の3人になっているかどうかを検証するのです。これが30%を上回っていれば「ゲタを履かせている」ことになり、30%未満なら「割りを食っている」ことになります。もちろん選抜する時期によりブレはあると思いますが、5年10年で検証すれば、傾向が出ると思います。検証結果として女性の候補者と昇格者の比率がほぼ同水準なのであれば、役員・部長の女性比率が低いという批判に対して、「わが社は公平公正な実力本位の女性登用を実施している」と胸を張って主張できるのではないでしょうか。

ちなみにわたしが人事部長をしていた会社では、管理職前の担当者の資格が4段階ありました。その最上位資格への昇格候補者の女性比率が30%程度に対して、昇格者も約30%と同水準になっており、毎年30%ずつ昇格していく結果として、担当者最上位資格の在籍者の女性比率も一桁台から徐々に増えて20%台後半までになってきました。担当者最上位資格の社員における女性比率の上昇は、すなわち課長資格候補者の女性比率の上昇であり、その結果として課長資格に昇格する女性も年々増加しています。

このように昇格者の女性比率は、女性候補者の在籍比率の増加にともなって徐々に増えていくことが自然です。もともと女性総合職の人数が少なく女性役員が少なかった会社が、新卒や中途で女性総合職社員を増やしていったとしても、女性役員が30%に達するまでには相応の年数がかかることになります。しかし各資格層での女性の候補者と昇格者の比率を明らかにすることで、外部からの雑音に対して明確に答えられるとともに、社員に対しては実力本位の運営を実施しているというポジティブメッセージを発することができるのです。

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